ソニー・ホンダのEV「AFEELA」開発の舞台裏。中国メーカー台頭に「クルマ作り変わってきている」と川西社長

AI要約

ソニー・ホンダの新型バッテリーEV「AFEELA」について、川西社長が率いる開発チームが「パーソナライズ性」を重視していることが特徴である。

AFEELAは、車内でのエンターテイメントだけでなく、テレワークやビデオ会議など様々な用途に活用できる柔軟性を持っているようだ。

ソニー・ホンダは他社との提携により、アプリやサービスの組み込みも視野に入れており、自動車業界における「スマホとアプリ」の関係を模索している。

ソニー・ホンダのEV「AFEELA」開発の舞台裏。中国メーカー台頭に「クルマ作り変わってきている」と川西社長

バッテリーEV「AFEELA」を開発中のソニー・ホンダモビリティ(以下、ソニー・ホンダ)において、ソニー側から同社をけん引するキーパーソンが川西泉氏だ。

川西氏はソニー・ホンダの社長兼COOを務めており、技術側のトップでもある。

ソニーグループは「モバイルからモビリティへ」というキーワードを掲げている。ロボットやバッテリーEVなど、「動き回るもの」がこれからの社会を担う、という発想だ。

ソニー・ホンダのAFEELAは、自動車としてのモビリティを体現する存在だ。ソニー・ホンダはどんなBEVを作ろうとしているのだろうか? 川西社長への単独インタビューでは、ジョイントベンチャーで挑む電気自動車をめぐる「キーワード」が見えてきた。

参考記事:ソニー・ホンダのEV「AFEELA」に鳴りはじめたカウントダウン。ホンダ出身・水野会長が語る「自動車業界の危機感」

AFEELAは「ソフトウェアで定義される自動車」(ソフトウェア・デファインドな自動車)を目指している。デザインも「スマートフォンのようなクルマ」を目指して、あえてシンプルなボディーラインで構成されている。

一方で、「ソフトウェアで定義される自動車」とはどんな体験なのか、その真意はまだ見えづらい。

車内前部のインストゥールメントパネルは写真(下)のように巨大なディスプレイで構成され、車内で映像配信を見たり、自宅にあるPlayStation 5を遠隔操作してゲームをしたり……といったデモも公開されている。

そのため、「車内でエンタメを楽しむ」ことがAFEELAの大きな特徴であるように語られることは多い。けれどもこれは、あくまで「わかりやすい機能」としてデモに使われているに過ぎない。

では、AFEELAはどこが特徴になるのか? 川西社長は次のように説明する。

「(AFEELAで狙う新しい価値が)どこかと言えば、『パーソナライズ性』。自動車の体験が自分の好みのものになるか、という話です。スマートフォンは、同じ製品を使っていても、人によって使っているアプリは違います。他人のものが目の前にあっても、使いたいとは思わない。

自分の好みであるとか自分の身近なものになるということ、高い自由度のものをどれだけ自然な形で作れるかが重要です」

ここでスマホが例に出てくるのは、AFEELAのカスタマイズ要素がハードウェア的なものだけではない、ということでもある。

例えば他人のスマホを借りたとして、そのままずっと使いたいとは思わない人は多いはずだ。アプリの配置や設定が「自分向けにカスタマイズされていない」というのは、現代人にとって非常に居心地の悪い感覚を抱かせる。平たく言えば、この感覚をEVにも持ち込む……ということだ。

その中には、前述のように「車内で映画を見る」という機能も含まれるが、それは付加価値のごく一部にすぎない。

川西社長は、ソニー・ホンダのアメリカ西海岸地域のマーケティング活動のなかで「クルマの中を(一時的な)仕事場にしてしまっているというケースがわかってきている」とも言う。一晩中でもエアコンの連続運転が可能なEVの特徴を生かして、車内を一時的なテレワーク空間として使ったり、あるいは出先でビデオ会議に使ったりといったようなことだろう。例えば競合にあたるテスラには、Zoomアプリも用意されているほどだ。

このほか、車体の外部にあるディスプレイである「メディアバー」の活用から、運転時のフィーリング、つまり走り味のカスタマイズまで、幅広い要素が含まれる。

川西社長は、そうした「パーソナライズ」や「機能拡張」について、ソニー・ホンダが提供するものだけでなく、他社が提供するアプリやサービスをAFEELAの中に組み込むことも視野に入れている。何が実現できるかは、もちろん今後のパートナーとの交渉次第ではあるものの、スマホとアプリ、PlayStationとゲームメーカーの関係に近いものを、自動車においても実現できないか……水面下でそんな模索をしているようだ。

もっとも川西社長からすれば、ソフトで拡張し愛着をつくる発想はごく自然なものだ。過去に、PlayStationやXperiaの開発にも関わっている。第一線でプラットフォームを作ってきた経験から言えば、あくまで「ずっとやってきたことを自動車でも展開する」に近い。

「自動車は人を乗せて走るものですから、安心・安全が第一であるのは間違いありません。その中でどこまでフレキシブルさを実現できるのか、境目を探しているところ」と川西社長は言う。