金価格上昇で結局トクした?「10万円金貨」 財テク長期投資の“夢の跡”

AI要約

1986年に発行された昭和天皇在位60年記念「10万円金貨」を作り直しても、2024年の金相場で小さくなってしまう。

金価格の高騰により、資産形成の難しさが浮き彫りになる中、金への投資が注目されている。

1986年の「10万円金貨」に起こった異例のブームや金への投資を取り上げ、庶民の投資意識の変化を振り返る。

金価格上昇で結局トクした?「10万円金貨」 財テク長期投資の“夢の跡”

 1986年に発行された昭和天皇在位60年記念「10万円金貨」を、もし2024年の金相場で作り直してみたら…、1円硬貨よりはるかに小さくなってしまった。

 今、金価格が記録的に高騰している。10万円金貨に沸いた40年近く前の日本を思い出しながら、資産を長期間持ち続ける難しさを考えてみる。

 今国内はデフレ脱却と言われながら実質賃金はマイナス。低金利が続く中、「少しでも資産形成を」と金融商品に関心を持つ人も多い。

 投資の一つで注目が集まっているのが「金」(ゴールド)である。最高値更新が相次ぎ、「1グラム1万円超え」のニュースは去年8月だったが、今月は1万3000円台(税込み)になっている。

 先月、東京・日本橋で1000万円の純金茶わんが盗まれた事件では金製品の高価さに驚かされた。

 金価格上昇についてはさまざまな分析があるが、投資・投機はもちろん、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊張といった動きが俗に「有事の金」と言われる値上がりの背景にあるとされる。

 金への投資と聞いて、庶民の家庭に育った私が思い出すのが冒頭に出た1986年の昭和天皇在位60年記念「10万円金貨」だ。

 ずっしりと重い純金でプラスチックケースに入っていた。直接手で触れない別格扱いだと感じた。実家の手提げ金庫でも板垣100円札や岩倉500円札の横で存在感を発揮した。

 「わが家も“財テク”だな」。在位60年の祝意よりも金色の光に目がくらんだ。

 今や死語同然の“財テク”という用語が一般化したのが1986年。この10万円金貨の年だ。元々は企業の資産運用に対する冷ややかな見方から生まれた。本業より高い収益を上げることを皮肉った。 

 しかし、財テクでも何でもいいから手軽にトクしたいのが庶民。おまけに政府発行なら間違いないのではないか…。

 10万円金貨は異様なブームを巻き起こした。

 1986年10月16日、東京・虎ノ門に現れたサラリーマンや主婦の長蛇の列。10万円金貨を求める人たちが作った。

 この日はまだ引き換え日ではない。大蔵省(現・財務省)の「金貨幣引換抽選券」(抽せん券)の配布が全国の金融機関や郵便局で始まったのである。用意されたのは5000万枚、当選は1000万枚、確率は5分の1だ。

 当選した人は、金融機関や郵便局に持ち込んで現金10万円を払って、ようやく10万円金貨を入手することができる。

 こうなると(当時すでに死語になりかけていた)“フィーバー”だった。天皇在位の祝意やコイン収集の目的もあったにせよ、買取価格上昇によるプレミアム狙いがあった人も相当数いた。

 「親子3人組みの姿もあり『きょうは会社も休み3人で一日がかりで抽せん券集めをする。(中略)この際、金貨でひともうけできれば…』」(「朝日新聞1986年10月16日夕刊」)と“もうけ心”を明かした。

 10万円と言えども庶民にとって立派な「投資」だ。それがいわば政府主催の国民参加イベントで行われた。

 さっそく、ちゃっかりした業者が現れる。