デジタル時代こそ「ボンディング型」で信頼を構築せよ

AI要約

デジタル時代のソーシャルキャピタルの課題とは、拡大したつながりの規模と速度にある。

デジタルネットワーク上では、ブリッジング型の利点が大きく、フリーライダー問題も発生しやすい。

デジタルネットワークで成功する企業は、ブリッジング型とボンディング型の両方の便益を提供し、公共財としての価値を創造している。

デジタル時代こそ「ボンディング型」で信頼を構築せよ

──第51回の記事:経済学におけるソーシャルキャピタル理論とは(連載第51回)

──前々回の記事:閉じたネットワークで取引されるもの(連載第52回)

──前回の記事:「ブリッジング型」と「ボンディング型」のソーシャルキャピタルを理解せよ(連載第53回)

■デジタル時代こそ、健全なソーシャルキャピタル運営が課題になる

 IT時代でも、人と人がつながることで便益が得られることの本質は変わらない。しかし課題は、ITの急速な進展によりつながりの規模が極めて大きく、またその拡大スピードも格段に速くなっていることだ。

 先に述べたように、ボンディング型ソーシャルキャピタルのメリットの一つは、人と人がつながることで知見や考えをシェアし、集合知が高まることにある。デジタルでもそれは同様で、ネット上やSNS上で知見・情報・アイデア・映像音楽などのコンテンツがシェアされ、プールされる。それはネット上でつながっている人なら誰もがアクセスできる、すなわち公共財である。

 しかし、デジタル上のつながりは圧倒的に速い。したがって極めて遠くまで、多様な人々がつながり合う。すなわちリアルなつながりよりも、はるかにその密度は低く、開かれたネットワーク構造になっているのだ。ボンディング型のソーシャルキャピタルが提示するところの「高密度で閉じたネットワーク」の、真逆なのである。

 ここに、デジタル時代のコミュニティサービスの矛盾と課題がある。現在の多くのデジタルサービスは、あらゆる人がつながって、そこで情報やモノを提供し合う(シェアする)ことでしか得られない、ボンディング型ソーシャルキャピタルの目指す便益をネット上で提供しようとしているともとらえられる。一方で、そのネットワークはあまりにも広いため、高密度で閉じたものになりにくい。すなわち、実際にはブリッジング型の「希薄なネットワーク」になりやすいのだ。つながっている人同士の距離は遠く、互いの相互監視・制裁が難しい。

 したがって信頼関係も築けず、デジタルネットワーク上でノームが形成しにくいのである。この理由で、ネット上に貯まった情報、知見、コンテンツなどを、本来は有償でも無償で使ったり、盗用・転用したり、コピーをつくったりという、フリーライダー問題が至る所で続発するのだ。

 これまでの議論からわかるように、人と人を「弱く、薄く、広く」つなげられるデジタル上では、ブリッジング型ソーシャルキャピタルの便益の方が圧倒的に得やすい。これは本書『世界標準の経営理論』の第25章で述べた通りだ。一方でボンディング型は、フリーライダー問題が発生するので、デジタル上では本質的に機能しにくいのだ。

 しかし逆に言えば、いまデジタルネットワークで成功している企業は、このデジタル上のフリーライダー問題を巧みに解消している、ということでもある。こういう企業・サービスは、ブリッジング型の便益を広くユーザーに提供しながらも、様々な仕掛けでボンディング型の便益をも提供し、だからこそ「公共財」としての場を提供できているのだ。以下、3つ事例を挙げてみよう。