「はい、ここ泣くところね」阿部詩衝撃敗北のスポーツ紙報道に強烈違和感のワケ…独りよがり、価値観押し付けに「誘導を感じる」

AI要約

阿部詩選手のパリ五輪敗北に対するスポーツメディアとネット上の反応は温度差があり、辛口のコメントと感傷的な記事が混在している。

阿部選手は兄妹で金メダルを獲得した東京五輪の英雄であり、期待されていたが、一本負けにより惨敗した。

敗北は本当に「番狂わせ」なのか疑問が残るが、実力と運、審判の要素が絡んだ競技であることを考慮すべきだ。

「はい、ここ泣くところね」阿部詩衝撃敗北のスポーツ紙報道に強烈違和感のワケ…独りよがり、価値観押し付けに「誘導を感じる」

 パリ五輪が盛り上がっている。日本国内での経済効果は2500億円にものぼるという試算も出ている。そんな中で、予想外の敗北を喫した柔道女子52キロ級の阿部詩選手をめぐり、スポーツメディアとネット上の反応で真逆とも言える温度差がみられた。まさかの一本負けに号泣した阿部選手にSNS上では「対戦相手の前で泣き叫ぶのは失礼」「最低限の礼節は弁えるべき」「さすがにカッコ悪い」といった辛辣なコメントが相次ぐ。だが、主要スポーツ紙は「きょうだい連覇夢散」「温かい拍手と『ウタ』コール」などと感傷的な記事で迎えたのだ。なぜ、ここまで温度差が生じるのか。経済アナリストの佐藤健太氏が解説するーー。

 またか、という思いがした。7月27日に女子48キロ級で角田夏実選手がパリ五輪日本選手団第1号となる金メダルを獲得し、最高のムードで試合に臨んだはずの阿部選手。28日の2回戦で途中まで有利な戦いを見せたが、ディヨラ・ケルディヨロワ選手(ウズベキスタン代表)に一本負けした。

 2021年の東京五輪では兄の一二三選手と兄妹で金メダルを獲得し、パリ五輪の「本命」と見られてきたのは間違いない。スポーツ各紙には「詩、あゝ無情 ぼう然、慟哭」「詩まさか 5年ぶり敗戦」などの見出しが躍り、阿部選手の敗北を大々的に報じた。

 本命視された選手の敗北は衝撃を与えたかもしれない。だが、これは本当に「番狂わせ」と言えるものなのか。相手は世界ランキング1位の選手であり、名もない選手が“一発屋”的に勝利をつかんだわけではない。たしかに日本にとっては絶対的な女子のエースと見られていたかもしれないが、勝負は実力だけでなく時の運も、審判との“相性”もある。それを「まさか」「無情」と評しているのには違和感を覚える。

 思い出すのは、2000年のシドニー五輪で柔道男子100キロ超級の篠原信一選手が決勝で敗れた時のことだ。相手のダビド・ドイエ選手(フランス)にかけた「内股すかし」が見逃され、誤審によって敗北した。コーチたちはアピールしたものの、篠原選手は敗れて銀メダルとなった。

 表彰式で悔し涙を浮かべた篠原選手の言葉は、何とも言えないほどズシンと響くものだった。「弱いから負けた。それだけです。不満はありません」。決して言い訳をせず、控室で涙を流す篠原選手に感動した人は少なくないだろう。この試合がきっかけとなり、ビデオ判定が導入されることになった。