ルネサス・エヌビディア・TSMC、三社三様の「貸借対照表」でわかる半導体“強者”の戦略

AI要約

半導体業界の注目企業であるルネサスエレクトロニクス、エヌビディア、TSMCの決算書を比較して解説。

各企業の戦略やビジネスモデルの違いが貸借対照表(B/S)に現れている。

記事では、B/Sの基本構造について説明し、各企業の最近の業績を紹介。

ルネサス・エヌビディア・TSMC、三社三様の「貸借対照表」でわかる半導体“強者”の戦略

 今回は、半導体業界の注目企業、ルネサスエレクトロニクス、米エヌビディア、台湾TSMCについて、各社の戦略の違いを決算書から読み解く。まずは、社会人なら読めるようになっておきたい貸借対照表(B/S)の基本について分かりやすく解説する。企業の買収ニュースでよく聞く「のれん」が計上される仕組みについても押さえておこう。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)

● ルネサス、エヌビディア、TSMC 決算書の特徴を徹底解説!

 今回は、半導体業界からルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)、米エヌビディア、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(以下TSMC)の3社の決算書を取り上げて比較してみよう。

 ルネサスは、三菱電機と日立製作所から分社したルネサステクノロジと、NECから分社したNECエレクトロニクスが2010年4月に経営統合して生まれた会社だ。

 設立直後は赤字が続き、13年9月には産業革新機構の傘下となり事実上国有化されたものの、その後構造改革に成功。23年11月には産業革新機構の後継会社であるINCJが保有株式の全てを売却したと発表した。

 近年、ルネサスは積極的なM&Aを仕掛けている。

 17年2月にアナログ半導体を手掛ける米インターシルを、19年3月には米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(以下、IDT)を、そして21年8月には英ダイアログ・セミコンダクターを買収した。また、24年2月には電子基板設計ソフトウェアを手掛ける米アルティウムの買収を発表している。

 エヌビディアは、パソコンに搭載されているグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)と呼ばれる画像処理演算装置を手掛ける米国の企業だ。同社の手掛けるGPUが人工知能(AI)向けに応用できることから、現在ではAIや自動運転の分野において重要な地位を占めるに至っている。

 また、24年2月には株式時価総額が米Googleの親会社であるアルファベットを抜いて世界ランキング4位になったことでも話題になった。

 TSMCは、台湾で1987年に設立された半導体メーカーだ。TSMCの特徴は、他の半導体メーカーが設計した半導体製造を受託する事業を専業で手掛ける、ファウンドリという事業形態にある。

 TSMCの受託先は米アップルや先に紹介したエヌビディアなど半導体のトップメーカーで、23年12月期第4四半期における市場シェアは60%を超えており(台湾Trend Force調べ)、世界最大のファウンドリである。

 最近では、24年2月に熊本に第1工場を開設したことでも話題となった。また、同時に熊本第2工場を建設するとも発表している。

 そんな半導体業界の注目企業3社だが、足元の業績はどうなっているのか。

 ルネサスの23年12月期決算は売上収益が約1兆4690億円(前期は約1兆5010億円)、営業利益は約3910億円(同約4240億円)と減収減益であったものの、当期利益は約3370億円(同約2570億円)と3期連続で過去最高を更新した。ただし、24年12月期の第1四半期決算では、売上収益が約3520億円、営業利益が約780億円となり、前年同期比では減収減益で着地している。

 エヌビディアの24年1月期の売上高は約609億ドル(1ドル=147円換算で約8兆9560億円)と前期から約2.3倍に、営業利益は約330億ドル(同約4兆8470億円)で前期の約7.8倍、という衝撃的な決算で過去最高を記録した。エヌビディアの好決算は日本の株式市場にもインパクトを与え、24年2月から3月にかけての株高につながった。

 TSMCの23年12月期の売上高は約2兆1620億台湾ドル(1台湾ドル=4.6円換算で約9兆9440億円)、営業利益は約9210億台湾ドル(同約4兆2390億円)と減収減益だったが、24年12月期の第1四半期決算では、売上高が約5930億台湾ドル(同約2兆7260億円)、営業利益が約2490億台湾ドル(同1兆1450億円)と、第1四半期決算として過去最高を記録している。

 このように、直近の決算では明暗が分かれた各社だが、それぞれのビジネスモデルや戦略も大きく異なる。

 今回は、各社の違いが主要な決算書の一つである貸借対照表(英語のBalance Sheetの頭文字をとってB/Sとも呼ばれる。以下、B/Sと表記する)にどのような差をもたらしているのかを解説することにしよう。

● ビジネスモデルや戦略の違いが表れる B/Sの基本構造

 3社のB/Sについて解説する前に、まずはその構造について説明しよう。

 B/Sは同じく主要な決算書の1つである損益計算書(P/L)に比べるととっつきにくいと感じる人が多いが、B/SにはP/L以上にその企業のビジネスモデルや戦略が表れる。ここでは、B/Sの基本構造を理解し、苦手意識をなくしておこう。