腸内に潜む「隠れた臓器」…「腸」と「脳」をつなぐマイクロバイオータが「体」と「心」に及ぼす驚きの影響

AI要約

腸と脳の情報のやりとりや影響を通じて、全身の不調に関わることがわかっている。

腸内フローラが脳腸相関に深く関わっており、腸内マイクロバイオータの存在が重要である。

脳腸相関の新たな役者として、腸内マイクロバイオータが注目されており、500~1000種類の微生物が存在している。

腸内に潜む「隠れた臓器」…「腸」と「脳」をつなぐマイクロバイオータが「体」と「心」に及ぼす驚きの影響

「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。

腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。

*本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

「○○菌の摂取により腸内環境の改善効果が期待できる」「ストレスによって腸内細菌叢(そう)(腸内フローラ)のバランスが変化する」ということを耳にすることがあります。この腸内細菌叢は、脳腸相関と深い関係があるのですが、体内でどのようなはたらきをしているのでしょうか?

腸内フローラと脳腸相関との関係を見ていきたいと思います。

「脳腸相関」とは、腸と脳が相互に情報をやり取りしながら、お互いに影響を及ぼし合っているという概念です。

簡単におさらいすると、ストレスを感じるとお腹が痛くなり、下痢や便秘などの便通異常が起こります。これは、自律神経を介して脳から腸へストレスの情報が伝達されるためです。このような脳から腸への情報伝達系のことを「脳腸軸」と呼びます。

一方で、空腹や満腹といった情報が腸から脳に伝達されることで、行動や食欲も変化します。このような腸から脳への情報伝達系も存在し、この情報伝達系を「腸脳軸」と呼びます。つまり、脳腸相関には、「脳→腸」と「腸→脳」の両方の情報伝達系が存在するのです。

脳から腸への情報伝達は、視床下部の神経内分泌細胞が分泌するホルモンや遠心性神経が関与します。一方で、腸から脳への情報伝達は、求心性迷走神経(内臓感覚神経)や消化管に存在する腸内分泌細胞が分泌する消化管ホルモンが関与します。

これに加え、近年になって、脳腸相関に新たな役者が登場しました。それは、腸内に存在する細菌、ウイルス、真菌です。

このような微生物の集団は、あたかも色々な種類の植物が群生しているように見えることから、「フローラ(細菌叢)」といい、腸内に棲みつく微生物の集団は一般的に「腸内フローラ」と呼ばれます。専門家の間では、この腸内フローラのことを腸内常在微生物叢(腸内マイクロバイオータ)と呼びます。以降、本書では「腸内マイクロバイオータ」とします。

なおヒトの大腸には、500~1000種類、約40兆個もの腸内マイクロバイオータが存在すると考えられています(※参考文献2-1)。私たちの体の細胞数は約37兆個ともいわれていますので(※参考文献2-2)、ほぼ同じだけの数の腸内マイクロバイオータが消化管の中には存在しているのです。