モータースポーツ開発車両「ミラ イース ターボ」を助手席で体験してみた

AI要約

「D-SPORTS CUP & DAIHATSU Challenge Cup 2024 TOCACHI」はダイハツとSPKによる共催イベントで、サーキットトライアル形式のクローズド競技でモータースポーツの入り口として知られる。

筆者はこのイベントで「ミラ イース ターボ」の同乗試乗を体験し、車の軽さや安心感を感じることができた。

イベントは初心者が気軽に参加できるモータースポーツの入り口を模索しており、ダイハツのユーザー層にも影響を与えている。

モータースポーツ開発車両「ミラ イース ターボ」を助手席で体験してみた

 8月25日、十勝スピードウェイ(北海道更別村)にて「D-SPORTS CUP & DAIHATSU Challenge Cup 2024 TOCACHI」が開催された。このイベントはかつてダイハツが開催していたダイハツチャレンジカップ(通称:ダイチャレ)とSPKが主催している「D-SPORT Cup」の共催という形で2023年より開催されているもので、サーキットトライアル形式のクローズド競技(練習会)だ。

 完走するとJAF国内Bライセンス取得の権利を得られるということもあり、モータースポーツの入り口としてのイベントとしても知られている。ただし、ライセンス講習会的な堅苦しさはなく、スポーティなコペン、エコカーのミラ イースから商用のハイゼットトラックまで新旧ダイハツ車がそろった“小さなダイハツ車の大運動会”といった楽しげな雰囲気にあふれていた。

 実は今回筆者がこのイベントにうかがったのは、ダイハツとSPKによる「D-SPORT Racing Team」がモータースポーツへの参戦を通じてクルマの楽しさを追求するために製作した開発車両「ミラ イース ターボ」への同乗試乗が大きな目的だった。ミラ イースは数あるダイハツ車の中でもエコカーと位置付けられるシンプルな4名乗車の5ドアハッチバックだ。市販されているモデルはNAエンジンにCVTの組み合わせのみの設定で、2WD・FFの車両重量はなんと650~670kgと非常に軽い。その軽量ボディを活かしながらターボを追加し、トランスミッションを5速MTに換装してモータースポーツ開発車両として生まれたのが「ミラ イース ターボ」なのだ。

 同乗試乗を担当してくれたドライバーは2023年のラリージャパンをはじめ、数々のラリー出場経験を持つD-SPORT Racing Teamの相原泰祐氏。まずは十勝スピードウェイのクラブマンコースで体験させていただいた。

 ピットを軽やかにスタートしたミラ イース ターボは1コーナーへ。進入速度が思いのほか速かったので少々驚いたのだが、その驚きも最初だけだった。率直に言って速いけど全然怖くない。弱アンダーで進入していくミラ イースターボは旋回する姿勢も常に穏やかで、とても快適。実は助手席だけの体験だけで運転はズブの素人の筆者にも感じられることは何かあるだろうか、という不安もあったが、その安定した走りをハッキリと感じることができた。

 筆者の場合、自動車の撮影をするカメラマンという仕事柄、多くのプロドライバー、多くのスポーツモデルでの助手席経験は比較的多い方だと思うが、語弊を恐れずに言えば「ミラ イース ターボ」は他のどのスポーツカーよりも怖さがない。もちろん軽自動車ゆえ速度の低さもあるとは思うが、旋回速度は十分に高く、単にそれだけとは思えない。どのコーナーもとても穏やかに旋回していく。ドライバーの相原氏は「刻々と路面が変わるラリーでは、その度挙動が大きく出やすいんですね。だから(ラリーにも出場しているこのクルマはどんな入力があっても)穏やかに足が動く方向でセッティングしています。今回はサーキット走行ということで、車速の高いターマックの路面を意のままに、かつ気軽に乗れることを意識して弱アンダー気味のセッティングにしてみました。もちろん積極的にアクセルを踏んで曲げていった方がタイムも出るし、何よりアクセルを我慢する時間は少ない方が楽しいので、オーバーステアにもちこむこともできます。いずれにしても、なにより大切なのは安心感と安全と考えています」と語る。

 安全はもちろん、この安心感をなにより大切にする姿勢は、スポーツ性よりも移動の足と割り切って利用している人や女性の比率が高いダイハツのユーザー層が影響している部分もあるとのこと。でもこれからサーキットを走ってみたい人だって男女問わず安心感はほしいものだ。

 その後、ジュニアコースでも体験させていただいたが、その印象は変わらなかった。ちなみに試乗中に非力さを全く感じなかったのは意外だった。十勝スピードウェイはコース全体が平坦かつ、極端に減速~加速を要求するコーナーが少ないので「ミラ イース ターボ」にはピッタリのコースだったとも言えるだろう。いくらターボ化されたとはいえ、スポーツランドSUGOの最終コーナーからの上り区間だったら……と思わなくもないが、高い車速で右へ左へとヒラヒラと軽快に走り抜ける十勝での同乗試乗は本当に楽しい時間だった。

 相原氏によると、この楽しい助手席体験の最も大きな要因はやはり軽さだという。たしかにクルマの運動性能を語る上で軽さは最も大きなファクターだと昔からよく耳にする。でもさまざまな要因でクルマはどんどん大きく重くなっていく。そんな流れが止まらない世の中で、市販モデルですら700kgにも満たないミラ イースをベースにモータースポーツ入門車の開発を進めるのは理にかなっていると思える。助手席体験だけでも本当に楽しく、プロの運転にただ感心するだけではなく、なんだか自分で乗ってみたくなってしまうのだ。

 車体の剛性に関してはラリーへの出場による知見が盛り込まれているそうで、ボンネットをのぞいても下まわりをのぞいても数多くの補強ブレースやタワーバーが確認できる。これらのパーツが最小限の重量増で高い効果を上げているとのことだ。この高い剛性を得たボディに組み込まれるサスペンションはD-SPORTの試作品、ブレーキは全日本ラリーでコペンに使用したD-SPORTの6ピストンキャリパーキットとのこと。市販車の重量でコペンより200kgも軽いミラ イースには余裕のあるブレーキで、制動力やブレーキング時の安定した挙動も軽さゆえとのこと。ここでも軽さは強い武器となる。

 話をモータースポーツに移そう。現在、ダイハツとSPKが取り組んでいるD-SPORT Racing TeamはTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジという比較的初心者でも参加しやすい競技に参戦している。参戦車両はダイハツのコペン、ロッキー、そしてミラ イース。小さくて決してパワフルとは言いがたいクルマで文字通りチャレンジしている。ちなみにラリーは一般公道を舞台とし、JAF国内Bライセンスで参加できるナンバー付き車両で行なわれる競技だ。

 一方、サーキットで開催されるレースの世界に目を向けるとTOYOTA GAZOO Racingが開催するGR86/BRZ Cupやヤリスカップというワンメイクレースも比較的参加しやすいナンバー付きワンメイクレースと言われている。しかしながら、実はそのレベルはかなり高い。そこでD-SPORT Racing Teamは「D-SPORTS CUP & DAIHATSU Challenge Cup」などの活動を通じて、もっともっと参加のハードルを下げたイベントを模索しているという。まさにGAZOO Racingが取り組むモータースポーツ活動の裾野を担おうとしているのだ。会場のテントやスタッフのシャツに描かれている「DAIHATSU GAZOO Racing」のロゴはその証だ。

 今回の同乗試乗させていただいた「ミラ イース ターボ」の走りとイベントの楽しさは、ダイハツ×SPKが本気で初心者が気軽に参加できるモータースポーツの入り口を模索していることを十分に感じることができた。

 現在、四輪車登録台数の4割が軽自動車だ。また、街を走る乗用車を見ると駆動方式はFFが多い。そう考えるとミラ イースのようなわが国で広く普及しているクルマがモータースポーツの入り口を担うことはとても自然なことのようにも思える。運動性能全てに有利に働く軽量ボディをもち、車両価格、税金や運用コスト全てにおいて安価であることも大きなメリットだ。このカテゴリーで安全かつ気軽にモータースポーツを楽しむことで完結するもよし。ステップアップしてより高みを目指すもよし。参加する友人と一緒にお弁当を食べながらモータースポーツにちょっぴり触れるもよし。そのボトムを担うダイハツ×SPKの「ミラ イース ターボ」の開発を通じて生み出されるライトウェイトスポーツの楽しさの今後の進化に注目していきたい。

 なお、2024年は4月の富士スピードウェイ(静岡県)を皮切りにスポーツランドSUGO(宮城県)、そして今回の十勝スピードウェイ(北海道)で開催されてきた「D-SPORTS CUP & DAIHATSU Challenge Cup 2024」だが、12月21日には沖縄県での開催が予定されている。