川崎市バスが障害者を「乗車拒否」 ネット大論争も、これは“デジタル化”が生み出した新たな問題ではないか?

AI要約

2023年8月、川崎市での出来事が、日本の公共交通が直面する新たな課題を明らかにした。報道によれば、障害者手帳アプリ「ミライロID」を使用した男性が、川崎市バスで割引を受けることを拒否された。市交通局は運転手の認識不足を謝罪したが、事情は複雑であり、利用条件の周知が不十分であることが浮き彫りになった。

ミライロIDは障害者手帳の情報をデジタル化して提供するアプリで、交通機関や施設で利用できる。利用には特定の条件があり、マイナポータルとの連携が必要だ。バス会社ではこの点を明記し、利用者に周知しているが、浸透が不十分であることが指摘されている。

ミライロIDの運営会社が交通機関での使用を周知しているものの、利用が拒否される事案が発生している。事業者や利用者の認識の向上が求められる状況であり、今後も適切な啓発が必要である。

川崎市バスが障害者を「乗車拒否」 ネット大論争も、これは“デジタル化”が生み出した新たな問題ではないか?

 2023年8月、川崎市での出来事が、日本の公共交通が直面する新たな課題を明らかにした。きっかけは『毎日新聞』の報道で、川崎市バスで身体障害のある男性が、川崎市が導入しているスマートフォンの障害者手帳アプリ「ミライロID」を使って割引料金で乗車しようとしたところ、拒否されたというものである。

『毎日新聞』によれば、以下のような経緯があった。

「男性は8月26日午後、家庭教師の仕事へ向かうために川崎駅前から市バスに乗ろうとしたところ、男性運転手から「現物の手帳でないと割引できない」とアプリの利用を断られた。男性は使用可能だと説明したものの受け入れられず、運転手は料金箱を手で押さえて乗車を拒む姿勢を示したという。他の客も乗車を待っていたため、男性はあきらめ、後続の別の運転手のバスで仕事先へ向かった。男性は2週間前の12日夕にも市バスを利用し、女性運転手から同じ理由でアプリの利用をいったん断られたという。この時は交渉の末に割引料金が適用されたが、乗車に時間を要することになった」(『毎日新聞』2024年8月29日付け朝刊)

 川崎市交通局は、アプリの利用について運転手の認識が不足していたことを謝罪した。このことに対して、ネット上では大きな反響があり、9月10日昼時点で、ヤフーニュースの該当記事には

「2541件」

のコメントが寄せられている。

 このニュースを見ただけでは、

「運転手の認識不足」

が原因で利用者が不利益を被ったように思える。しかし、実際の事情はもっと複雑なようだ。川崎市交通局の担当者は、筆者(昼間たかし、ルポライター)の取材に対して次のように説明した。

「既報の事案につきましては、乗務員及び営業所から、お客様が提示されたスマートフォンの画面が手帳の写真であった(マイナポータルの連携画面ではなかった)ことからお呼び止めした際に生じたとの報告を受けております」

 ミライロIDは、2019年にサービスを開始した障害者手帳の情報をデジタル化して利用できるアプリだ。このアプリを使うことで、対応する交通機関や施設では紙の手帳を取り出す手間を省くことができる。

 また、アプリ内ではさまざまな障害者割引の情報を提供し、オンラインショッピングも可能だ。2020年にはマイナポータルとの連携が実現し、2024年7月時点でユーザー数は30万人を超え、4000以上の事業者が導入している。このなかで、全国で300以上のバス事業者が対応している。川崎市でも2021年7月から導入されている。

 多くのバス会社では、障害者手帳の代替として利用可能になっているが、利用するにはマイナポータルとの連携など特定の条件を満たす必要がある。これらの条件は、ミライロIDの公式サイトに掲載されている。

 川崎市バスの場合、「マイナポータルと連携済みのミライロIDをご提示いただいた方が対象です」と明記されている。これは東京都交通局でも同様だ。

 また、福岡県内を中心とした路線バスなどを運行する西鉄バスでは、利用条件を詳しく示して注意喚起している。

「「マイナポータル」との連携が完了したミライロIDに限り使用できます。連携が完了していないミライロIDは、割引乗車券の購入や、乗車時の資格確認に使用できません」

 ミライロIDを運営するミライロ(大阪市)によれば、交通機関でのミライロIDの利用が拒否される事案はこれまでも発生しており、その都度周知を行っているという。

 多くのバス会社では、ミライロIDがマイナポータルと連携していることにより、障害者手帳の代替として利用できると判断している。しかし、この点について事業者の周知や利用者の認識が十分に浸透していないことがうかがえる。