ホンダが「F1初優勝」をマークした伝説のマシン「59年ぶり」に米国で疾走! サーキットに響く「ホンダミュージック」の心地よさとは?

AI要約

ホンダがアメリカでF1マシン「RA272」のデモ走行をおこない、2024年にはF1初参戦から60周年を迎えることが注目されている。

「RA272」は1965年のF1で初優勝した伝説のマシンで、V型12気筒エンジンを搭載し、高い性能を誇った。

ホンダはF1の技術開発だけでなく、ブランドマーケティングにも活用し、2026年からは新たに第5期ホンダF1としてF1に再参戦する予定だ。

ホンダが「F1初優勝」をマークした伝説のマシン「59年ぶり」に米国で疾走! サーキットに響く「ホンダミュージック」の心地よさとは?

 ここ数年、アメリカで“F1熱”が急速に盛り上がっているということ、ご存じの方も多いと思います。そんなアメリカはカリフォルニア州モントレーにあるウェザーテック レースウェイ・ラグナ セカで、先ごろ、ホンダが1台のF1マシンのデモ走行をおこないました。マシン名は「RA272」。1965年のF1を戦った伝説のマシンです。

 2024年はF1初参戦より60周年という節目となるホンダは、すでに7月にイギリスの「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2024」で、この「RA272」を走らせていました。

 マシンは「ホンダコレクションホール」が所蔵する2台の「RA272」のうちの1台で、1965年のメキシコGPにてリッチー・ギンサーのドライブで初優勝を遂げた11号車そのもの。その前戦、ワトキンスグレンサーキットで開催されたアメリカGP以来、実に59年ぶりにアメリカの地を踏むこととなったのです。

 今では第1期と呼ばれるホンダのF1初参戦は1964年。まだ4輪車メーカーとしてほとんど実績のなかったホンダは、当初、エンジンコンストラクターとして参戦するべくロータスと提携していましたが、1964年初頭に突然の破談に。ホンダは急遽、シャシーも自前で開発して参戦します。初戦は1964年8月のドイツGP。マシンは「RA271」でした。

 翌年にはシャシー、エンジンともに改良版となる「RA272」で全戦に出場。最終戦となる第10戦メキシコGPで初勝利を遂げます。

 この「RA272」の見どころは、なんといってもエンジンにほかなりません。アルミモノコックシャシーのドライバー背後に横置きされる“RA272E”型エンジンは、なんと排気量1495ccのV型12気筒。当時のF1で、他に12気筒エンジンを使っていたのはフェラーリだけだったと考えれば、ホンダがいかに意欲的だったのかが伝わってきます。

 2輪車メーカーとしての実績が可能にした、1気筒当たり約125ccという小さなシリンダーを12個、V字型に並べた精緻なエンジンは、機械式燃料噴射システムを持ち、1万3000回転で最高出力230psを発生。さらに、1万5000回転近くまで軽々と回る超高回転・高出力型で、他の追随を許さないトップスピードを発揮したとされます。

 実際、マシンに積まれたところを見ても、エンジンは非常にコンパクト。まさに精密機械といった趣です。

 一方のシャシーは、仔細に見ると当時のままというわけではなく、しっかり補修され、また現代のパーツも使われています。どうやら11号車は、単に動かせるというだけでなく、しっかり走らせられるようにと、こうして今の技術も用いて仕立てられているようです。同じ「RA272」でも、12号車の方は現役当時の雰囲気を可能な限り残しているとのことでした。

●サーキットに響き渡るホンダミュージック

 そんな具合でマシンをチェックしていたら、ピットで整備されていた「RA272」がメカニックたちの手押しで外に出てきました。「もしや?」と思うと、やおらエンジンをかける準備が始まります。

 メカニックの皆さんは、気づけば全員イヤープラグを着用。大丈夫かなと思っていたら、ついにエンジンが爆音を上げて始動! その迫力の、けれどどこか澄んだサウンドに、周囲のファンがマシンを取り囲むように押し寄せてきます。エンジンを“レーシングさせる”と皆、大興奮です。耳栓が欲しい、でも、生音をもっと聞いていたい!

 しばらくして、いよいよ走行の時間です。私はコースサイド、ダンロップブリッジ先の第4コーナーに陣取ってその勇姿を見守りました。

 エキシビションということで、ペースカーの先導で他車とともに5周ほどの走行。最初は抑えめでしたが、徐々にペースが上がっていきます。サーキットに響き渡るホンダミュージック! 正直、第1期ホンダF1にはそこまで思い入れはないつもりだったのですが、実際にラグナ セカを走る「RA272」を観ると、なんだかこみ上げるものがありました。

 マシンは本調子というわけではなく、全開にはできていなかったようです。コースサイドで音を聞いていても、探りながらアクセルを開けている感じが伝わってきました。

 実はイベントのパンフレットには、ドライバーとして「TAKUMA SATO」の名が記されていたのですが、実際にはホンダコレクションホールのテストドライバーで、このマシンをよく知る宮城光さんが走らせていたのは、そんな理由もあったのかもしれません。

 その後、1966~1985年までのF1マシンでおこなわれるレースの開始直前にも「RA272」、走行をおこないました。1周だけでしたが、こちらは周囲にマシンがおらず、おかげでエンジンサウンドを存分に味わうことができました。

 ちなみに、当初はこのレースへの参加も考えたのだそうですが、「RA272」は1965年のマシンということで断念。ホンダのスタッフは「来年は『RA273』(1966年シーズンを戦った3リッターのマシン)を持ち込もう!」と盛り上がっていました。本気で楽しみにしてもよいのでしょうか!?

 ただし、その際には「調子悪い」なんていっていられませんから、体制強化も求められるかもしれませんね。ホンダ ヒストリック レーシングとして。第2期、第3期のマシンだって、もっと観たいですしね。

 今回の走行は、F1初参戦から60周年を記念したものでしたが、ホンダとしてはこうした活動を1年限りで終わらせるのではなく、今後も続けていきたいとしています。

 ご存知のとおり、今はレッドブル レーシングのF1パワーユニットの開発を請け負っているカタチのホンダですが、2026年からは正式にF1復帰を果たします。そのアピールのためには、こうした活動はマスト、というわけです。

 初参戦から60年にして、ようやくF1を技術開発の場だけにとどめず、ブランドマーケティングに活用することに気づいた……若干、意地の悪いいい方をすれば、そういうことになるでしょうか。

 ともあれ、HRC(ホンダ レーシング コーポレーション)主体で戦う第5期ホンダF1が、これまでとは違ったカタチで私たちを楽しませてくれることは、大いに期待してもよさそう。伝説の、そして原点でもある「RA272」の走行を観て、そんなことを感じたラグナ セカだったのでした。