「印刷できないものはほとんどない」町工場が直面した危機 強みを生かした「沿線グラス」が救世主に

AI要約

安心堂は、多様な素材に小ロット印刷を提供する会社で、コロナ禍でも新機軸を打ち立てて成長している。

丸山有子さんは、家業に入ってから印刷を学び、顧客の「生涯の宝物」を印刷することに情熱を注いでいる。

手動式小型パッド印刷機「なんでもくん」を開発し、多くの企業やメーカーに利用されている。

「印刷できないものはほとんどない」町工場が直面した危機 強みを生かした「沿線グラス」が救世主に

 「印刷のできないものはほとんどありません」。安心堂(東京都足立区)はそんなキャッチコピーを掲げ、独自開発の印刷機を武器に、プラスチックやガラス、陶器など多様な素材の小ロット印刷に対応しています。40歳を過ぎて家業に入った2代目の丸山有子さん(52)は、素人同然から印刷を学び、試作工場を一般に開放するなどして、新機軸を打ち立てました。コロナ禍で売り上げは85%も減りましたが、顧客にとって「生涯の宝物」を印刷しようと決意を新たにし、鉄道の路線図を印刷した「沿線グラス」をヒットさせて苦境を脱しました。

 安心堂は、丸山さんの父・寛治さんが1974年に興したマルミ産業が前身です。インキが付着したシリコンパッドを対象物に押し付けるパッド印刷、絹布を版材としたシルクスクリーン印刷、UVインキを用いたUV印刷の三つに対応しています。

 丸山さんは「平面や曲面はもちろん、表面が凸凹のものにも印刷できます。扱う素材は、プラスチックやガラス、布地、レザー、陶器、ステンレスなど。食品残さとプラスチックを混ぜた新素材などにも印刷可能です」と胸を張ります。

 発注は、企業の記念品やトロフィーの名入れ、ロゴやオリジナルグッズの印刷など多種多様で、「記念品100個」といった小ロットにも対応できます。従業員数は5人ながら、大手環境マネジメント企業「日本カルミック」(東京)をはじめ、取引先は数千社にのぼります。

 その技術を支えるのが、寛治さんが開発した手動式小型パッド印刷機「なんでもくん」です。

 丸山さんは「パッド印刷は比較的ローコストですが、セットアップや機械操作、クリーニングが面倒です。父はもっと手軽に印刷できるようにしたいと、シンプルな構造の『なんでもくん』を開発しました」と説明します。

 「なんでもくん」は、製版から印刷まで一貫して行うことができ、印刷対象の素材やサイズを問わず、超精密品から日用雑貨まで簡単にパッド印刷ができます。区認定の「足立ブランド」にもなり、展示会にも定期的に出展できるようになりました。 

 「なんでもくん」は外販も好評で、印刷を内製化したい企業やオリジナル商品を作りたいメーカーを中心に、これまで1千台以上を売り上げています。製版キットなどの関連商品も含めた外販は、売り上げの半分を占めるそうです。