「自分から売り込まない」「田植えをエンタメ化」…京都で130年続くお酢屋の5代目が打ち出した“逆転の発想”

AI要約

飯尾醸造は130年の歴史を持つお酢メーカーで、米づくりから手がける伝統製法の「富士酢」が特に注目されている。

5代目当主の飯尾氏は、家業を継ぐために大手食品メーカーに入社し、そこでマーケティングの重要性を学んだ。

彼の逆転の発想が、現在の経営方針に反映されている。

「自分から売り込まない」「田植えをエンタメ化」…京都で130年続くお酢屋の5代目が打ち出した“逆転の発想”

従業員数36名、売上約4億円と小規模ながら、今もっとも注目を集めるお酢メーカー「飯尾醸造」(京都府宮津市)は、130年の歴史を誇る老舗だ。一般的な米酢基準の5倍もの米を使って伝統製法で手がける「富士酢」を軸に、ピクルスや手巻き寿司専用酢など、大手が追随する新市場を次々と開拓してきた。5代目当主・飯尾彰浩氏(49)のモットーは「弱者こそ強い」。逆転の発想の源は、新卒入社した“世界No.1企業”での挫折だった。

―飯尾醸造のお酢作りについて教えてください

当社は「米づくり」から手掛けているお酢屋です。

看板商品の「純米富士酢」は、ミシュランシェフからも評価された芳醇な旨みが特長です。

これは酢1リットルにつき米200gと、「米酢」を名乗れる基準量の5倍もの米を使用しているからです。

飯尾醸造の味の要は、米なのです。

京都府宮津市の棚田で無農薬栽培した新米から作った酒を、3~4ヶ月かけて静置発酵します。

さらに8ヶ月ほど熟成させてまろやかに仕上げます。

酒の仕込みを省略して醸造アルコールを添加するメーカーもある中、日本古来の製法を守り抜いています。

――5代目ということですが、いつから家業を継ぐこと意識したのでしょうか?

高校1年生の三者面談で、父が「息子には東京農業大学醸造学科の柳田藤治先生の研究室で、米酢にまつわる研究をしてもらいます」と宣言したんです。

中学生の頃から「いずれ自分が継ぐのだろう」と思っていましたが、そこでより将来像が明確になりました。

その後、本当に東京農業大学に進学し、醸造学を専攻して大学院修士課程を修了しました。

――その後、東京コカ・コーラボトリングに入社されました。

家業を継ぐ時のために、大手食品メーカーで営業を経験しておきたかったのです。

コカ・コーラは、飲料メーカーとして当時の世界No.1企業でした。

絶好のチャンスでしたが、私に営業はまったく向いていませんでした。

「買ってください」とストレートに売り込めず、尻込みしてしまいました。

上司からも「適性がない」と判断されて、研修プログラムやワークショップを作成する教育部門に異動となりました。

ですが、ここで学んだマーケティングはとても大きな財産になりました。

自分から売り込めないなら、相手が買いたくなる空気を作ればいい。「矢印の向きを普通とは真逆にすればいいんだ!」と気付いたのです。

この発想は現在の経営方針と深く結びついています。