食洗機をダイニングに。トーヨーキッチンに学ぶ“ゼロ動線”の暮らし

AI要約

トーヨーキッチンスタイルが提案する「ゼロ動線プラス」のキッチンを取材。ダイニングに配置されたキッチン家電や食洗機の配置など、暮らしを変える斬新なアイデアが紹介されている。

キッチン・ダイニングを一体化させた新しいライフスタイルの提案や食器や食洗機のスムーズな動線、家事シェアの進化について解説されている。

部屋の中央に家電や収納を配置する提案や、パッションオレンジなどカラーバリエーション、家電アトリエでのキッチン家電配置についても言及されている。

食洗機をダイニングに。トーヨーキッチンに学ぶ“ゼロ動線”の暮らし

トースターやレンジ、炊飯器はキッチンに置くものだと決めつけていませんか? 前回は「日立Chiiil×カリモク家具」のコンセプトモデルを切り口に、冷蔵庫をダイニングや書斎、ベッドルームやリビングなど様々な場所に置くことで一歩進んだ快適な暮らしが始まることをご紹介しました。

今回は、この春さらに進化した「ゼロ動線プラス」のキッチンを発表したトーヨーキッチンスタイルを取材。そこから得たものをヒントに、家電の置き場所をもっと柔軟に、自由な発想で捉えることで変わるに違いない“これからの暮らし”について提案したいと思います。

■ 創業90周年。日本で初めてアイランドキッチンを発売したトーヨーキッチンスタイル

名古屋に本社を置くトーヨーキッチンスタイルは、元々、岐阜県関市にて「合名会社東洋食器製作所」として1934年に創業し、職人の技術を生かしたステンレス刃物や洋食器を製造。今も生産拠点として、関市に工場を構えています。

創業以来、一貫してステンレスの職人技を磨いてきた同社は、1984年にシステムキッチンの製造をスタートし、2001年には日本で初めてアイランドキッチンを発売して新しいライフスタイルを提案。2016年にはシンクの中で調理を完結させることで“ゼロ動線キッチン”を実現するシンク「パラレロ」を生み出しました。

今回取材したのは、東京・南青山にある東京ショールーム。よくあるシステムキッチンではなく、同社ならではのアイランドキッチンをベースに、オーブンや食洗機などの設置場所や食器の収納など、あらゆるものを最短距離で動線がゼロになるようにしつらえた最新モデルの「ゼロ動線プラス」の詳細を知るべく、出かけたのでした。

■ 調理から後片付けまで、キッチン・ダイニングにおける動線をゼロにする

ショールームに入ってまず目に飛び込んできたのが、くすみブルーのカラーを採用したブルーミストのキッチン&ダイニング。手前にはダイニングチェアと同色・同素材のソファもあり、リビングまでが同じ空間になっていることがわかります。LDKを1つの空間として捉え、「料理をする」「食事をする」「くつろぐ」を同じ空間の中で考えることで暮らしが大きく変わるとし、生活の核となるこの空間をリビングコアという言葉で定義しているのだと言います。

同社が提案している「ゼロ動線プラス」とは、一歩も動かずに調理が完結するゼロ動線キッチンに収納が加わり、調理から収納までのゼロ動線を実現したもの。2024年5月に発表された新モデルでは、新たに後片付けのゼロ動線が加わりました。

ダイニング、シンク、食洗機が最短距離になり、さらに収納への片付け動線もゼロに。ダイニング側に引き出し収納が用意され、食器が入れられるようになっていますが、テーブルセッティングがスムーズなだけでなく、食洗機のすぐ隣に位置するので、きれいになった食器を収納する時もゼロ動線ということですね。

■ 食洗機をダイニング側に持ってくる新発想で“食べた人が片付ける”暮らしへ

なるべく調理がしやすいように動線を工夫したキッチンを考えるのはある意味当たり前になってきていると思いますが、「調理から収納、配膳、後片付けまで、キッチン・ダイニングにおける動線をゼロにする」というのは斬新ですし、その手があったかというインパクトがあります。

何より、ビルトインの食洗機の配置を考える時、キッチンシンクの下(近く)に持ってくるものという固定観念を排除し、ダイニング側に持ってくるという発想に切り替えたことで、使った食器はテーブルからそのまま食洗機へ持っていけるのですから。こうしたレイアウトになっていたら、自然に食べた人が片付けるようになるでしょうし、「今日の当番は誰」というような家事シェアの考えさえ不要になることでしょう。

ダイニング側からもシンクが使えるので、いわゆる「予洗い」をすることもできますが、今回案内してくださったトーヨーキッチンスタイル・マーケティング部の殿谷和樹さんによれば、それも不要とのこと。「そのまま食洗機に入れていいのですよ。洗浄性能に優れていることもありますが、もしも取り出してみて汚れの落ちていない食器を見つけたら、それだけをシンクで洗い直せばいい。つまり“後洗い”ですね。すべて予洗いしてから食洗機に入れる人もいますが、それより断然効率的です」と。

予洗いから後洗いへ――なんという斬新な発想でしょう。でも、確かに理にかなっているし、前述したような「食べた人が自分の食器を食洗機に入れる」暮らしには、後洗いのほうが断然スマートです。

ちなみにこちらの食洗機は、ドイツのビルトインキッチンメーカーGAGGENAU(ガゲナウ)社製のもの。「日本ではミーレの方が知られているように思いますが、ヨーロッパではミーレの上を行くブランドですよ」と殿谷さん。ダイニング側に置いても食後のひとときを邪魔しない、静穏性にも優れた食洗機だと聞き、なるほどと納得しました。

■ 部屋の中央にテレビを置く「リビングコア」な空間の提案も

ゼロ動線プラスを採用したキッチン・ダイニング「iNO」のほかにも、ユニークな暮らしの提案がショールームの各所に見られて、目を引きます。シックでシンプルなキッチンと組み合わせた空間に置いてあった食器棚と思しき家具は、下の扉を開けると冷蔵庫になっていて、これもある意味、ゼロ動線です。海外の展示会ではビルトインの冷蔵庫をよく見かけますし、家具と一体化したようなデザインのものもあります。それを取り出してきて、家具のように設えたといった感じでしょうか。「Chiiil×カリモク」の家具仕様の冷蔵庫もまさに同じような立ち位置だと膝を打ちました。

そのほか、部屋の中央に収納と観る・聴く(=テレビ)が一体になった間仕切りのような家具を置き、くつろぎのスペースとキッチンを一体化させる提案も。一般的には大画面のテレビは壁側に置かれる、もしくは壁そのものに取り付けるものですが、ソファを壁側に置くことで部屋の中心部に視線が集まります。くつろぎのスペースとキッチンを一体化させ、孤立させないという点で新しいなと思いました。

1階ショールームの奥でパッションオレンジの鮮やかなカラーが際立っていたのが、キッチンとダイニングをスクエアでコンパクトな形にまとめたQランドです。マンションにも取り入れやすいと人気のモデルだそうで、中でも一番人気はこのパッションオレンジ。気分が明るくなるという理由もありますが、パッションオレンジはホワイトやブラックといったカラーとの組み合わせはもちろんのこと、同系色であるブラウンとも相性が良く、木をふんだんに用いたナチュラルな住宅によくマッチするイマドキのカラーなのですね。

2018年のミラノサローネでお披露目され、2022年に日本でも発売が開始された「ドルチェ&ガッバーナ」と「SMEG」がコラボして生まれたキッチン家電コレクション「Sicily is my love」の冷蔵庫が パッションオレンジのQランドによく合っていました。

■ ダイニングにキッチン家電を置く暮らしを具現化した「家電アトリエ」

最後に筆者が約10年前から東京・広尾に構えている「家電アトリエ」のことに触れたいと思います。というのも、家電の置き場所で暮らしが変わることやダイニングにキッチン家電を置く暮らしを具現化し、それを取材に来られた方にお見せしたいという思いがあって始めたことだからです。トーヨーキッチンスタイルのゼロ動線プラスのキッチン・ダイニングは素晴らしく、夢のようですがそれをすぐに自宅に導入するのは大変なこと。スペースも資金もかかりますからね。

でもゼロ動線の考え方を学んで、それを応用して家電の置き場所を見直してみるのは今すぐにでもできることだと思うのです。アトリエは、執筆や撮影に使う場所でもあるダイニング周辺にオーブンレンジやキッチン家電を配置し、それが使いやすいように、コンセントに常時接続可能な大容量のポータブル電源をハブとして、そこから電源をとっています。

キッチンスペースも閉じた空間ではなく、ダイニングからも見えるので、冷蔵庫は大好きなブル―グレーに塗装してもらっています。奇しくも今回取材したゼロ動線プラスのブルーミストとかなり近しいカラーでご縁があるなと思いました。ガスコンロは使用しないため、市販のカバーで覆い電気ケトル置き場やちょっとした作業台として便利に使っています。

昨年登場したパナソニックの自動計量IH炊飯器は無洗米をセットしておけますし、デザイン性もスマホから操作できる点においても置き場所を選ばないキッチン家電の筆頭と言えるかもしれません。また、ゼロ動線プラスの最新モデルに採用された「ダイニング側に食洗機を」という考え方も、近年人気のタンク式の食洗機に排水用の容器を設けるなどの方法で決して難しいものではないとも思いますし、近いうちに新発想の「ダイニングに置ける食洗機」が誕生することを夢見ています。家事シェアのその先、みんなが当たり前に家事もするし、くつろぎ、楽しむ暮らしになりますように。