最大で500億円の取引になる可能性も…中国人富裕層が狙う「イセコレクション」高級陶磁器の行方

AI要約

伊勢氏は西洋絵画や中国陶磁器を収集する世界的なコレクターであり、美術館に無償で名品を貸し出す活動を行っている。

中国陶磁器のコレクターとしても知られ、自身の美意識により選ばれた名品が世界的な注目を集めた。

80年代以降、伊勢氏は中国陶磁器の宮廷コレクションに本格的に関心を持ち、高価な西洋絵画から転換していった。

最大で500億円の取引になる可能性も…中国人富裕層が狙う「イセコレクション」高級陶磁器の行方

伊勢氏といえば、印象派や近代絵画を中心とする西洋絵画の世界的なコレクターとしての側面が知られている。モネの「エプト川のポプラ並木」やシャガールの「街を越えて」、さらにはポップアートの旗手と呼ばれるウォホールの「リズ」など、1960年代半ばから80年代初めに収集した名画を、世界各地の美術館の求めに応じて無償で貸し出した。

そして前述した通り、伊勢氏は中国陶磁器のコレクターとしても世界的に名を知られた存在なのだ。例えば17年6月にパリの「ギメ東洋美術館」(フランス国立の東洋美術専門美術館)で開催された「世界を魅了した中国陶器」。日本人コレクターである同氏が収集した、戦国時代から清代まで中国陶磁器の名品88点が展示され、「日本人の美意識によって選び抜かれた中国陶磁」と大きな話題を呼んだ。

ある美術評論家は「フランスの国立美術館で日本人コレクターのコレクションだけが展示されたのは、あの時が恐らく初めて。オープニングセレモニーでは岸田文雄外相(当時)のお祝いメッセージが披露されました」と振り返る。

伊勢氏が中国陶磁器の宮廷コレクションの収集を本格的に始めたのは80年以降のこと。自身の下に出入りを始めた地元の若手古美術商に勧められ、80年に「景徳鎮窯乾隆茶葉末双耳壺」を数千万円で購入した。現在価値はその10倍以上とも言われる。

当時、中国陶磁器はまだそれほど高価ではなく、その若手古美術商に「中国の焼き物は世界の焼き物のリーダー。これを収集しなくてはコレクターの名が廃る」と説得された伊勢氏は、「まさに完璧な美を湛えた名品。『よし、ひとつ買ってみるか』と腹を括り」(同氏)、宮廷コレクション収集の道に足を踏み入れることに。それ以降、同氏の関心は西洋絵画から中国陶磁器や日本の茶道具などに移り、自身のコレクションの図録に載せるような高価な西洋絵画は購入しなくなった。

80年代から90年代前半にかけては「南宋青磁輪花盤」や、戦前の重要美術品(50年の文化財保護法施行以前、古美術品の国外流出防止を主な目的に日本政府が認定した有形文化財)の「法花蓮池水禽文梅瓶」を購入。東京国立博物館が94年に中国陶磁器の特別展を開催する際、自身が所有する中国陶磁器3点の貸し出しを要請してきたことを受けて、「自分が購入した中国陶磁器はそれほどの価値あるものだったのか」と知った同氏は、宮廷コレクションの収集に一段と力を入れた。

さらに10年には「龍泉窯飛青磁瓶」と「五彩金襴手花鳥文瓢形瓶」という重要文化財の名品2点を相次いで購入。15年には「景徳鎮窯青花牡丹唐草文壺」を手に入れている。美術館の貸し出し要請を受ける機会が増えたため、齢80を過ぎた10年代になっても億円単位の名品を購入してきた。