「ジェット機でもプロペラ機でもない」異色の飛行機、なぜ誕生? 実はドンズバかもしれない使い方とは

AI要約

飛行機はジェット機とプロペラ機に分かれるが、ファントレイナーと呼ばれる特殊な操縦訓練機も存在した。

プロペラ機の操縦には独自のクセがあり、その一つがピーファクターという現象である。

かつてはジェット機パイロットにプロペラ機の操縦訓練が有害と考えられ、練習機の設計が見直される時代もあった。

「ジェット機でもプロペラ機でもない」異色の飛行機、なぜ誕生? 実はドンズバかもしれない使い方とは

 飛行機はおおむね、ジェット機とプロペラ機の2タイプに分かれます。しかし西ドイツのライン航空機製造では、そのいずれでもないエンジンを持つ飛行機を過去に開発していました。練習機の「ファントレイナー(ファントレーナー)」です。

 最新鋭のジェット戦闘機のパイロットも、大型旅客機のパイロットも、操縦訓練を始めるとき最初に乗る機体はプロペラ機です。その理由は、運航費用が安いことに加え、操縦士としての適性の見極めに適していることなどが挙げられます。

 ところが、プロペラ機の操縦には、特有のクセも存在します。その一つが「ピーファクター(P-Factor)」と呼ばれるものです。

 プロペラは回転軸に対して気流を正面から受ける場合にはまっすぐ前に推進力を発生させます。ところが、迎え角を変えるとプロペラの右と左で気流と接する角度が変わってしまうため、推進力の方向が斜めに傾いてしまうのです。

 たとえば、プロペラの回転方向が時計回りのアメリカ製のエンジンを搭載した飛行機では、機首を上げると左側に引っ張られます。そのため、パイロットは右ラダー(方向舵)を動かすペダルを踏んで、修正する動作が必要になります。プロペラの回転方向が反時計回りのイギリス製のエンジンを搭載した飛行機では逆に左側のラダーを踏んで対処します。

 かつて、こうしたプロペラ機特有の操縦性が、ジェット機パイロットの養成には有害であると考えられた時代がありました。

 たとえば1950 年代、アメリカ空軍では全ての練習機をジェット化する構想のもと、ジェット初等練習機セスナT-37を導入します。ところが、訓練生が初めて操縦する機体としてはやはりジェット機は不向きであることが判明しました。そのため、米空軍は軽飛行機のセスナ172を軍用仕様としたT-41初等練習機を採用し、訓練生は最初にT-41で基本訓練を行った後にT-37へ移行する訓練体系に変更しました。

 戦闘機パイロットを大量に養成する必要に迫られていた西ドイツ(当時)でも1960年代、プロペラ機ではない練習機が計画されます。西ドイツのライン航空機製造はダクト(エンジンカバー)内に収めたプロペラ型のファンを用いて推進力を得る「ダクテッド・ファン」方式の軍用練習機を計画し、ジェットエンジンを用いた練習機よりも経済的にジェット機のような操縦感覚の練習機を目指します。これが、のちの「ファントレイナー」です。