ドカンと一発!「夢の巨砲」←それ、要りますか? 戦車の巨砲化にNOの声が聞こえるもっともな理由

AI要約

欧州の戦車メーカーが140mm主砲を搭載した新しい主力戦車を開発中。長らく120mm主砲が主流だったが、西側戦車業界はロシアのT-14戦車に対抗するために巨砲化に取り組んでいる。

新砲「アスカロン」はMGCS用に開発されており、RHA換算貫通力は1000mm以上とされる。モジュラー化されており、砲身交換が1時間以内に可能。

次世代戦車の動向を受けて、車両の軽量化も考慮されており、反動吸収技術の向上や革新的なマズルブレーキが採用されている。

ドカンと一発!「夢の巨砲」←それ、要りますか? 戦車の巨砲化にNOの声が聞こえるもっともな理由

 夢の140mm主砲装備の主力戦車がいよいよ登場するのでしょうか。ドイツのクラウス・マッファイ・ヴェグマンとフランスのネクスター・システムズの共同持株会社であるKNDSは、欧州標準の次世代戦車として主力地上戦闘システム(MGCS)を開発していますが、2024年4月、MGCS用に同社が開発していた140mm戦車砲「アスカロン」(Ascalon:自動装填で拡張可能な砲という意味の頭文字を取った)の完成目途がたったと明らかにしました。

 戦車の主砲は第2次大戦から冷戦時代にかけて巨大化してきましたが、1980年代に登場したM1エイブラムスやレオパルト2など第3世代と呼ばれる戦車の120mm砲以降、その流れは約40年間止まっていました。

 冷戦が終結し、正規軍の主力戦車どうしが対決する可能性は低くなったと見なされる時代、対戦車用に巨砲化する必要も少なく、また約20kgある120mm砲弾を、戦車内で人が扱うのは限界に近かったのです。

 ここに一石を投じたのが、2015(平成27)年に姿を現したロシアのT-14戦車でした。西側の分析によると、正面装甲は新素材により、RHA(均質圧延鋼装甲)換算で1000mm以上と見積もられたのです。西側戦車で標準だったラインメタルの120mm戦車砲(Rh120砲44口径)のRHA換算貫通力は700mmでしたので、仮に対峙したら西側戦車は不利になります。

 2015年といえば、ロシアにとっては大祖国戦争勝利70周年の記念すべき年でしたが、前年の2014(平成26)年にロシアによるクリミア併合があり、西側と緊張関係が高まりつつありました。西側戦車業界は対抗するため、巨砲化に再び取り組んだのです。

 KNDSは、「アカスロン」が今後50年に登場するであろう敵戦車に対抗できるとアピールしており、RHA換算貫通力は1000mm以上であることを示唆しています。「アカスロン」はMGCS用と謳われていますが、2024年6月12日に発表されたレオパルト2シリーズの最新型デモンストレーター「レオパルト2A-RC」にも装備できるとしています。これはMGCS完成までのブリッジソリューションとされています。

 レオパルト2A-RCは無人砲塔で従来の120mm砲、ラインメタルの130mm砲も選択できます。ちなみにラインメタルとは、MGCSのビジネスライバルとなる「KF51パンター」を発表している関係にあります。このライバル社製品でさえも、自社のオプションに含めるという欧州戦車業界の複雑な一面が垣間見えます。

「アスカロン」はモジュラー化されており、現場でも1時間以内に砲身交換が可能だそうです。MGCSの具体形は出てきていませんが、それを見込んだ構造になるのでしょうか。ちなみに公表されたレオパルト2A-RCの写真を見ると、無人砲塔なので構造に柔軟性は持たせてありそうです。主砲取付部は交換を考慮してスリット状とされ、砲架がはまっているように見えます。

 また反動吸収技術の向上と、反動をコントロールする革新的なマズルブレーキにより、重量50t以下の車両にも搭載できる点も特徴です。次世代戦車は軽量化することも織り込み済みなのです。