「仕事を舐めている」とミスした後輩を怒鳴る…勝手に決めつけ怒り狂う人たちの正体

AI要約

相手から怒りを買ってしまった場合の対処法について述べられている。怒りの裏にある本当の感情を見極めることが重要であり、怒りには様々な感情が隠れている。

怒りを持つ人が脳の活動に影響を与えてしまい、自身にも不利益が及ぶことが紹介されている。最終的には怒りに身を任せている人が報いを受けることになる。

怒りに対処する際には冷静な対応が求められ、相手の怒りの本当の理由を理解し、適切な対応を取ることが重要である。

「仕事を舐めている」とミスした後輩を怒鳴る…勝手に決めつけ怒り狂う人たちの正体

 なぜ組織の上層部ほど無能だらけになるのか、張り紙が増えると事故も増える理由とは、飲み残しを放置する夫は経営が下手……。わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。そもそも「経営」とはなんだろうか。

 経済思想家の斎藤幸平氏が「資本主義から仕事の楽しさと価値創造を取り戻す痛快エッセイ集」と推薦する13万部突破のベストセラー『世界は経営でできている』では、気鋭の経営学者が日常・人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語る。

 ※本記事は岩尾俊兵『世界は経営でできている』から抜粋・編集したものです。

 我々はときどき他者から怒りを買う。買ってしまった怒りは返品もできない。

 相手から「許さんぞ貴様ぁ」などと令和とは思えない時代劇がかったセリフを浴びせかけられて思わず噴き出しそうになる。だがこちらが笑いをこらえていることが分かったら相手の怒りはますます猛ってしまう。

 あるいは、「わ、か、る、だ、ろ、わかるだろっ。この、ハゲー!」と、某元国会議員に類似したラップ調の怒気を投げつけられることもある(この一文がスベっているのは理解しているのだが実際の出来事なので仕方ない)。

 なるほど、この人も音楽のセンスと観察力(注:最近私はハゲてきた)があるな、などとぼんやり思っていると「おいっ、聞いてんのかっ」と激高されてしまう。

 他者の怒りに対処するのは大変だ。

 誰かを怒らせてしまったら鈍感な私でも申し訳なく思う。と同時に相手のあまりにも唐突な怒りに困惑していると、こちらもふつふつと怒りが湧いてくる。そうなるともう怒りが怒りの連鎖を生んでとことんまで揉めるはめになる。

 そこで大抵はどちらか大人な方が(必ずしも年齢が上の方とは限らないが)怒りを鎮火させる役割を担う。たとえば「目の前で怒り狂っている人は、便意を我慢しすぎてトイレが見つからない怒りを周囲にぶつけているのだろう」といったん考えておくなどする。すると不思議なことに優しい気持ちで相手に接することができるようになる。

 そうして冷静になれたら今度は相手が怒っている原因を探っていく。といっても支離滅裂かつ論理破綻気味に怒鳴り散らす人が相手では、いったい何が憤怒の着火剤になったのか一向に判明しない。

 かといって相手の論理破綻を指摘したり、相手が怒っている表面上の理由に対して正論をぶつけたりするのは、悪手であることが多い。

 たとえば相手は表面上「会議の五分前にチームメンバーが全員集まっていなかった」ことに怒っているかもしれない。これに対して「メンバーみんなで一時間前に集まって、別室で昼食をとりながら待機していました」と返しても意味がない。

 なぜなら相手はまさにこの「チームメンバーが上司の自分を誘わずに楽しそうにランチしていた」ことが悲しくて/寂しくて怒っているだけかもしれないからだ。

 このように怒りは別の感情を覆い隠すために用意されている。大抵の場合、怒りの裏には、嫉妬、困惑、焦燥、後悔、自責、不安、羞恥、期待、失望などが潜む。

 だからこそ相手の腹立ちの真因を明らかにしなければ相手の怒りは静まらない。

 このことを知らずに相手の話の論理矛盾を突いたり、解決策を提示したり、相手の勘違いを正したりしても効果はあまりのぞめないだろう。さらに最終的に「怒っている人とは話ができない」「落ち着いて話をしよう。今はこれでおしまい」「まあ、まあ、まあ、まあ」などと遮断してしまったらますます火に油を注いでしまうだけだ。

 こちらに対して一方的に怒りをぶつけてくる人を相手にするときは、相手の怒りの本当の理由を明らかにするという一種の推理クイズが始まったと思えばいい。

 結果として相手の怒りはただの八つ当たりだったと判明することもある。その場合は時間をおいて、「嫌なことがあったのはよくわかる。でも、あなたが怒りをぶつけるべき相手は私ではない。関係ない人まで巻き込まれると、こっちの仕事にも影響するし、あなたも損すると思う」と伝えるといいだろう。

 もちろん相手の怒りの原因が自分だったということもありえる。

 その場合は、まずは相手に対して怒りの真因を理解したことを遠回しに伝えればいい。相手の怒りをいったん受け止めて理解した上で、自分が悪いことは直していけばよいし、間違いや勘違いといったどう考えても相手が悪い怒りだとわかったら、この段階でそのことを落ち着いて指摘してもよいだろう。

 自分勝手に怒っている人を相手にここまでしてあげる義理はないと思う人もいるかもしれない。しかし困ったことに、支離滅裂論理破綻激高型の人はこうして対処してあげないと激高を通り越して怨恨の感情を抱き始めることさえある。そのため後から面倒なことに巻き込まれないためにも大人としての対応が必要だ。

 そもそも怒っている人は脳という「人間が持つ最も有力な器官」を「怒りという何も生み出さない活動」に浪費してしまっている損な人だ。

 そうした人は脳のメモリを怒りに占拠されてしまうため、脳の活動時間と活動密度が低くなり本来の能力を発揮できていないだろう。このタイプの人は周囲から人がいなくなったり、ハラスメントで訴えられるリスクが上がったりといった不利益も享受している。

 怒りに身を任せる人は色んなところで相応の報いを受けている可哀想な人でもある。「短気」な人は「長期」の利益は得られない。そう考えればこちらも少しは優しくなれる。