「液晶のシャープ」の中核・堺工場の“損切りの決断”、跡地はKDDI・ソフトバンクのAIデータセンターとして活用 元社長は「これから面白いことができる」

AI要約

大阪の巨大工場が、思わぬかたちで注目を集めている。テレビ向け大型液晶パネル撤退と同時に操業停止が決まったシャープ堺工場。KDDIとソフトバンクが敷地をAIデータセンターとして活用することになり、施設のインフラが注目される。

シャープは堺工場の一部を売却し、KDDIとソフトバンクと共同でデータセンターを構築する。この決断は、液晶工場の価値がないと判断され、損切りの必要性が示された結果である。

鴻海グループを親会社とするシャープは、AIサーバー分野との相性も良く、アジア最大級のAIデータセンターを目指している。時代遅れの工場が再び世界の最先端となる可能性が期待されている。

「液晶のシャープ」の中核・堺工場の“損切りの決断”、跡地はKDDI・ソフトバンクのAIデータセンターとして活用 元社長は「これから面白いことができる」

 大阪の巨大工場が、思わぬかたちで注目を集めている。テレビ向け大型液晶パネル撤退と同時に操業停止が決まったシャープ堺工場。その敷地・建屋をめぐり、KDDIとソフトバンクが「AIデータセンター」として活用したいと名乗り出たのだ。

「データセンター」とは、インターネット用のサーバーやデータ通信などの装置を設置・運用することに特化した施設のことである。今回堺工場は、AI処理に対応できる大規模なAI計算基盤を持つ「AIデータセンター」が2社によって構築されることとなる。

 通信事業者としてライバル関係にある2社と、シャープはそれぞれ提携を行なうと発表した。注目されるのはなぜか。経済ジャーナリストの大西康之氏が解説する。

「液晶工場として稼働させていた際に、頑丈な建屋と空調設備、安定的な電力供給や排水処理などのシステムを完備させていた。工場としてのインフラが整備されている点が良かったのでしょう」

 シャープは同工場の約6割の土地や設備をソフトバンクに売却し、KDDIとはデータセンターを共同運営する見通しだ。2009年に約4000億円の巨費を投じて建てられた大工場は、多額の赤字を生み不首尾に終わった。大西氏はこう続ける。

「アクオスというブランドのためだけに、あれほど大きな工場は最初から必要なかったんです。技術は高いが、値段も高い。そんなパネルが欲しいというメーカーは少なくなっていた。そうしたなかで価格競争に敗れ、中国の企業に追い抜かれてしまった。結果的に堺工場は、液晶工場としての価値はないと判断された。今後、液晶製造の設備などが廃棄されたら倉庫として買われたも同然で“跡地利用”という状態になる。それでも、損切りの決断ができた点は評価できます。この決断は鴻海の経営陣でなければできないことでした」

 堺工場はシャープにとって三重県の亀山工場と並ぶ中核施設で、社運をかけて建設された。完成時に社長を務めていた町田勝彦氏に思いを聞いた。

「工場というのは、どんどん変化していくのが当たり前。臨機応変に生まれ変わるのは、良いことだと思いますよ。持っている資産をどう活用するかが経営ですから」

 シャープの親会社である台湾の鴻海は世界のiPhoneの大半を製造しており、コンピュータ分野との相性も良い。町田氏はこう加える。

「鴻海グループはAIサーバーで世界シェア4割を占めるともいわれており、相乗効果も大きいでしょう。また、データセンターというのはこれから主流になる、重要なものです。これから面白いことができると期待しています」

 完成すればアジア最大級のAIデータセンターになるという。時代遅れの烙印を押された工場は、再び世界の最先端となれるか。

取材・文/西谷格(ライター)