中国政府は「10万人の娼婦」を壊滅させたはずだったが…この10年で激変した「中国のセックス産業」の現在

AI要約

中国政府は性産業を厳しく規制し、広東省東莞市などでの光景も変わってきている。中国では性意識革命が進み、社会全体に影響を及ぼしている。

過去の性産業に関する統計と現在の状況を比較するとともに、若者のセックスライフへの影響も考察される。

中国のセックス産業の中心地であった東莞市について、経済発展に伴う変化や性産業の繁栄、娼婦の問題などが紹介される。

中国政府は中国での性産業を厳しく取り締まっている。その結果、かつて「10万人の娼婦がいる」とされた広東省東莞市でも、10年前とは光景が一変しているという。ジャーナリストの邱海涛さんの著書『中国の台湾武力統一が始まる』(徳間書店)より一部をお届けする――。(第3回)

■中国社会で進む「性意識革命」

 筆者はこれまでに、中国人の性事情に関する本を4、5冊出版した。中国では日常会話で命のことを「生命」とはいわず、「性命」という。これは「性愛」や「セックス」がなければ「人間の命」が成り立たないという考えに基づくからだろう。

 中国人の「愛」と「欲」と「性」への情熱的な渇望が垣間見える。

 一方、「生命」という言葉は、中国では詩作や医学論文など特定の文脈でのみ使用される。

 約40年前、中国は西側の投資を呼び込む改革開放政策へ舵を切った。

 外資の進出と経済の活性化により、庶民の生活は豊かになった。それと同時に、性意識の解放を含む性文化の大革命が起こった。毛沢東時代の厳しい禁欲主義と比べ、現在の社会は大きく変わった。

■売春という社会問題も浮上

 性意識革命が起こる一方で、売春という社会問題も浮上している。

 14年前に出版した本では、「中国で性産業に携わる人は500万人以上、年間収益は1兆円にも上る」と記述したが、現在の性産業はどうなっているのだろうか。

 過去5年間、米中貿易摩擦、コロナ禍、経済不振などが相次ぎ、若者たちのセックスライフにどのような影響があったのか。色街はまだ健在なのか。売春婦たちは心を入れ替え、どこかで真面目に働いているのだろうか。

■中国セックス産業の「王城」と呼ばれた町の現在

 中国色街のナンバーワンといえば、広東省東莞市だった。かつて中国セックス産業の「王城」とも呼ばれていた。

 40年前は小さな田舎の町だったが、改革開放により1990年代から外国企業が進出し、のちに1000万人の人口をもつ世界の加工工場となった。

 面積はほぼ東京都と同じであるが、世界の洋服と靴の10分の1、パソコンの5分の1、子供の玩具の3分の1はここから出荷されている。

 世界の有名メーカーの工場が東莞に林立しており、多くの日系企業もこの地に工場を建てた。

 2000年代頃まで、東莞の経済は毎年20%以上という驚異の成長率で発展していた。市民の暮らしは非常に豊かになり、衣食住や娯楽、遊びなど、欲しいものがあれば、何でも手に入れて満足できるようになっていた。

■10万人の娼婦が全国各地から集まった

 セックスライフの変化はそのなかの一つだった。

 経済発展にともない、多くの出稼ぎ労働者が東莞市にやってきた。同時に、10万人といわれる娼婦が全国各地からこの地に集まった。100人に1人という割合だから多すぎる。性産業が繁栄し、東莞市は「性都」とも呼ばれるようになった。

 一方、経済発展著しい都会では、間違いなく「欲」「金」「色」(色とは性のことであるが、売春ではない)が隅々にまで充満する。この条件と環境に恵まれなければ、投資家も労働者も集まらないだろう。