ライバル大手書店が手を組んだ…同時に「1点推し」、ベストセラー生み出し若者に「こっち向いて」

AI要約

九州の大手書店チェーンが共同で同じ本をPRする取り組みが始まる

書店経営の改革を目指し、若い世代に知られていない本を発掘

書店数の減少に危機感が高まり、活性化を図るために展開

 紀伊国屋書店やTSUTAYAといったライバルの大手書店チェーンが同じ本を同じ時期にPRする取り組みが、九州で行われている。出版不況で書店経営が厳しさを増す中、ベストセラーを生み出して業界の活性化を目指す試みで、全国に広げるための試金石として期待が寄せられている。(松本晋太郎)

 福岡県久留米市の大型商業施設内にある紀伊国屋書店久留米店で5月中旬、シンプルな表紙の書籍「百瀬、こっちを向いて。」が、売り場にずらりと並べられていた。同県出身の作家、中田永一さんによる青春小説集で、そばには「九州エリア書店発の1点推し!!」と記された紹介パネルや、書店員が作製したフリーペーパーが添えられ、来店客が手に取りやすいよう工夫が施されていた。

 同じキャンペーンは九州内の紀伊国屋書店、TSUTAYA、積文館書店の系列計70店以上で行われており、7月上旬まで続ける予定だ。紀伊国屋書店と、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ、積文館書店をグループに持つ日本出版販売の3社が書店経営の改革に向けて設立した新会社「ブックセラーズ&カンパニー」の取り組みで、3社の店舗網が多くそろう九州で全国に先駆けて始めた。

 「1点推し」を考案した紀伊国屋書店久留米店の花田吉隆店長(45)は「若い世代に知られていない本を発掘することで、書店に目を向けてほしいと考えた」と話す。各書店ではほかに、中高生らに人気の作家、汐見夏衛さんのフェアなども展開している。

 大手チェーンが企業の枠を超えて共同で販売促進に乗り出したのは、電子書籍の普及などで全国的に書店が減り続けていることへの危機感がある。一般社団法人「日本出版インフラセンター」(東京)によると、2023年度の全国の書店数は約1万900店で、10年で3割減少している。

 ブックセラーズ&カンパニーは九州での実績を踏まえて今後、関東などでも実施する。参加企業も増やしていきたい考えで、同社の宮城剛高社長は「様々な本と予期せぬ出会いがあるのが、リアルの書店の価値だ。書店の楽しさを伝え、地域発のブームをつくっていきたい」と意気込んでいる。