「自分が先立ったら残されたペットが心配…」お世話を任せられる人に託す“ペット信託”とはどんな制度か? 弁護士が解説

AI要約

ペット信託とは、ペットの世話を先立った飼い主が任せる制度である。信託は委託者、受託者、受益者の3者で構成され、ペットは受益者になれないため、適切な受益者を見つける必要がある。

ペット信託の利用例は希少であるが、ペットを預かる人や団体を受益者とすることで実現可能である。信託は遺言や契約によって行われ、ペットの世話を任せる人とその経費を支出するための人が必要である。

メリットは、信託財産がある限り、受託者が受益者に支払いを確実に行うことで一定の安心感が得られる。デメリットは、適切な受益者を見つけることが課題であり、期待が裏切られる可能性もある。

「自分が先立ったら残されたペットが心配…」お世話を任せられる人に託す“ペット信託”とはどんな制度か? 弁護士が解説

 もしも自分が先立ったら、残されたこのペットはどうなってしまうのか……そんな不安を抱いている人も少なくないだろう。そういった事態に備える制度が「ペット信託」だが、具体的にどういうものなのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。

【質問】

 私は犬を飼っていますが、自分の死後、ペットの世話を誰がしてくれるのかとても心配です。親きょうだいはすでに他界し、私には子供もいません。

 最近、「ペット信託」という制度があることを知りましたが、どのような制度なのでしょうか。利用するメリット、デメリットを教えてください。(石川県・70才・アルバイト)

【回答】

「信託」とは、一定の目的のために他人に財産を預けて管理や処分を任せ、その目的を実現するための制度です。信託する財産を預ける委託者、預かって管理や処分をする受託者、その利益を得る受益者で構成されます。

 ご質問の場合、飼い主であるあなたが委託者になり、受託者が経費を生み出す信託財産(多くは現金)を預かってペットの世話をし、世話されるペットが受益者になれば簡単ですが、ペットは人間ではないので受益者になれません。

 その場合、受益者のいない「目的信託」になりますが、これは、受託者になれるのは純資産が5000万円以上の法人で、期間も上限20年と制約が多く、実際の利用例は希です。

 しかし、ペットをかわいがってくれる人や団体に預ける方法で信託を利用できます。この場合、ペットを預かる人や団体が受益者となって、信託財産から飼育のために必要な費用の支払いを受けます。しかし、受託者と受益者を同じにすると、信託は1年で終了するという決まりなので、受益者に信託財産を預けることはできず、別に受託者を定める必要があります。

 つまり、ペットの世話を任せられる人、その人に渡す経費を支出するために信託財産を預かる人がいればペット信託は可能です。信託は遺言でもできますし、受託者との信託契約によっても可能です。

 後者の場合は生前に信託することになるので、飼い主本人が一次的な受益者になり、死亡時にペットの面倒を見てくれる人に二次的に受益者になってもらいます。ペットは法律上は“物”ですから、自分が死んだときにはペットの世話をする受益者に遺贈する、という遺言を残すことが必要です。

 メリットとしては、受益者が自分のペットとして面倒を見て、費用も信託財産がある限り受託者が受益者に確実に支払ってくれるので、ある程度安心ということです。

 デメリットは、受益者等に期待を裏切られる可能性があるということです。信頼できる受益者や受託者を見つけるのが最大の課題です。この点は動物病院や動物愛護団体に相談するのがよいでしょう。また、手続きについては信託を得意とする法律事務所もあるので相談してみてはいかがですか。

【プロフィール】

竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。

※女性セブン2024年6月20日号