日本オリジナルの舞台芸術「宝塚歌劇」。その唯一無二の美とは?

AI要約

宝塚GRAPH 2014-2024という写真集について紹介。写真家の渞忠之さんが撮影した宝塚歌劇団のカバーやステージ写真、男役トップスター5人の撮り下ろし写真が収録されている。

渞さんは、宝塚歌劇の特別さと日本の文化としての重要性についてコメント。宝塚音楽学校の教育システムの存在が宝塚歌劇団を世界で類を見ないものにしていると説明。

小林一三によって1913年に宝塚唱歌隊が創設され、110年以上にわたって続く宝塚歌劇団の素晴らしさを伝える。

日本オリジナルの舞台芸術「宝塚歌劇」。その唯一無二の美とは?

 宝塚歌劇団の機関誌「宝塚GRAPH」10年分のカバー写真やステージ写真、男役トップスター5人それぞれの撮り下ろしなどを収めた写真集「宝塚GRAPH 2014-2024」。そこに掲載されている全ての写真は、写真家の渞忠之(みなもと・ただゆき)さんが撮影したものだ。宝塚歌劇のみならず、日本のトップアーティストのポートレートを数多く手がける渞さんは、この本の最終ページで、「宝塚歌劇団は、世界にも類を見ない特別で稀有な劇団であり、今や大切な日本の文化です」とコメントしている。

 「そこに携わる人全員が“理想の美”を共有し、公演を最上のものにするための修練を怠らない。『宝塚音楽学校』という独自の教育システムを持つことで、その美の提供を持続可能なものにしている。こんな演劇集団は、世界中どこを探してもありません」

渞さんは、宝塚歌劇が世界で唯一無二である理由をそう説明した。渞さんと宝塚歌劇の出会いは今から15年ほど前。歌舞伎俳優の中村時蔵(現・初代中村萬壽)さんの勧めで初めて宝塚を観劇し、それまで見たこともないファンタジックな美しさと、演者たちの高いスキル、どこをとっても隙のない統率の取れたステージに圧倒されたという。

 「トップスターが主役を演じるというスターシステムはとっていますが、ステージ上で、『私が、私が』と自分を全面に出そうとする劇団員は一人もいなかった。それぞれが自分の役に徹していて、目の前にいるお客さんのためだけに演じている姿に感動しました」

 なぜそんなことが可能なのかと思い、宝塚歌劇の成り立ちについて時蔵(現・萬壽)さんに聞いたり、自身で調べたりしてみると、宝塚音楽学校の存在が大きいことがわかった。

「難関試験を勝ち抜いた約40人が、2年間切磋琢磨しながら、歌やダンスや楽器演奏のみならず、着物の着付けや所作など、舞台で必要なことの基礎を徹底的に学びます。ステージへの憧れを胸に、2年間にわたるレッスンを乗り越えていく。そんなシステムが110年も続いていることが、奇跡だと思いました」

 阪急東宝グループの創業者である小林一三が、宝塚唱歌隊を発足させたのが1913(大正2)年のこと。小林一三といえば、鉄道を中心とした都市開発に、百貨店やスーパーなどの流通事業、遊園地や劇場のような観光事業を一体化させる「私鉄経営モデル」の原型を作った人物として知られている。少女による宝塚唱歌隊は、当時人気を博していた三越の少年音楽隊に触発されたようだが、そこから110年もの長きにわたって理念が受け継がれるなど、小林一三も想像していなかったのではないだろうか。

 「宝塚歌劇のお芝居は、和物や洋物、漫画原作とバラエティに富んでいるので、人によって好みが出ると思いますが、最後のレビューを見て感動しない人はいない。背負う羽根の大きさによってヒエラルキーがあることはわかっても、演者は誰一人天狗になったりはしていなくて、全員が自分の役に徹し、動きを完璧にシンクロさせながら、オーラを出し続けている。つまり全員が主役なんです。日本語では、『同じ釜の飯を食う』なんていう表現があるけれど、彼女たちの一糸乱れぬ踊りは、やはり10代の2年間、生活を共にしたことからきていると僕は思います」