テーラリングのエキスパートに訊く、最適なスーツのラペルの選び方

AI要約

スーツを買う際には、ラペルのスタイルが重要である。

ラペルの選択がスーツの見た目やキャラクターを決定づける。

ラペルの幅やスタイルの選び方にはルールがあり、ネクタイやシャツの襟とのバランスも考慮する必要がある。

テーラリングのエキスパートに訊く、最適なスーツのラペルの選び方

ノッチ、ピーク、ショール。幅広、スリム、その中間……。スーツを買うとき、最初に決めるべきなのがラペルのスタイルだ。

優れたテーラードジャケットは、優れた楽曲のように、悩ましいほど複雑で込み入ったものだ。映画『ハード・プレイ』の劇中でウェズリー・スナイプスが雄弁に語っていたように、曲を“聞く”のと“聴く”のとでは大きな違いがある。同じように、素敵なスーツジャケットを眺めるのは簡単だが、それが他のものよりどの点で優れているのか、あるいは劣っているのかを理解するのは難しい。

スーツの見た目、フィット感、着心地を決定する要素は何十とあるが、その雰囲気を即座に決定づけ、自然とキャラクターを確立してしまう要素が1つだけある──ラペルだ。普段のオフィススーツであれ、レッドカーペット用のベルベットトリムのタキシードであれ、全てはジャケットのラペルのスタイル、幅、仕立てから始まる。

「すべてのジャケットのルックは十数種類の要素から成り立ち、その全てが互いに関係性を持ち調和しています。たいていの場合、そのなかで最初に目に入るのが肩とラペルです」と話すのは、メンズウェアの権威であるファッションジャーナリスト、ブルース・ボイヤーだ。「テーラリングの面白いところのひとつは、全体を見直すことなしにジャケットの一部だけを変えることはできないということです。つまり、例えばラペルの幅を1cmほど詰めたり、あるいは逆に広げたりする場合には、全体への影響まで考慮しなければなりません。それができるかどうかが、優れたテーラーやデザイナーと、そうでない人の違いだと思います」

■ノッチ、ピーク、ショール、それぞれの違い

スーツジャケットの最もベーシックなラペルは、他のアウターウェアにも見られる襟の高度に進化した親戚のようなものだ。その本来の目的は、他のアウターウェアと同様に風雨から身を守ることである。しかし現代においてはラペルはほとんど装飾的なものであり、ノッチ、ピーク、ショールの3つのスタイルに分類されている。

ノッチドラペルはラペルファミリーの中で最もポピュラーなもので、小さな三角形の切れ込みが特徴だ。ピークドラペルは上向きに尖っていることでより見映えがし、通常ダブルブレストのジャケットに用いられる。一方、ショールラペルは首の周りに途切れのない曲線を描くもので、ほとんどタキシードジャケットにしか使われない。

「例外もありますが、ピークドラペルはシングルブレストには用いませんし、ノッチドラペルはダブルブレストには合わせません」と、ボイヤーは説明する。「人々は常に新しいものを生み出そうとしていて、伝統的なピークドラペルではなくノッチドラペルのダブルブレストスタイルを着ている人をたまに見かけますが、歴史を振り返ってもそういったものは定着しておらず、そのルールはここ150年ほど変わっていません」

ラペルのもうひとつの特徴はその幅だ。女性のヘムラインが時代によって高くなったり低くなったりするのと同じように(景気が上向きなほどスカートの丈も短くなるというが、男性の服にも当てはまるだろうか?)、ラペルの寸法も同様に細くなったり広くなったりするパターンを辿り、1940年代の膨らみのあるズートスーツから60年代のスキニーなモッズスーツ、そして80年代の肩幅の広いパワースーツへと変化してきた。

「経済動向に関係あるかはわかりませんが、大きく幅広のラペルはより率直でオープンなスタイル、スリムなものはシンプルさの表現として、よりカジュアルでトーンダウンした印象を与えます」と話すのは、オランダのスーツブランドSUITSUPPLY(スーツサプライ)の創業者でCEOのフォッケ・デ・ヨングだ。「ファッションは振り子のようなもの。現在よく見るドレスアップしたテーラードスタイルは、ピークに達したストリートウェアとカジュアル化に対する反動のように感じられます」

ぴったりとしたスリムなジャケット、足首の見えるパンツ、細いラペル(トム ブラウンのシグネチャーである小さいスーツの影響も少なからずあるだろう)が続いた20年を経て、メンズウェアの潮流は再び方向を変えた。「シルエットがゆったりしてきましたね」と、ボイヤーは言う。「ジャケットは動きやすくなり、トラウザーズはハイウエストでややたっぷりとしたカットになり、今後は肩幅とラペルも広くなっていくことでしょう」

■トレンドを追う必要はない

これから新しいスーツやスポーツコートを買う人へのアドバイスがある。ノッチ、ピーク、ショールのどれを選ぶにせよ、ラペルにはどんなジャケットにも合う大きさというものはない。「ワイドフィットのジャケットや幅広のラペルが増えてきていますが、ラペルの幅というのはジャケットのスタイルによって決まるものです」と、デ・ヨングは言う。「ダブルブレストのジャケットはラペルの幅が少し広めの方が見映えが良く、ノッチドラペルのシングルブレストは少しスリムに仕立てられている場合が多いかもしれません」

「私が守っている一般的なルールがいくつかあります」と、ボイヤーは言う。メンズウェアの50年を見届けてきた彼は、トレンドの移り変わりを幾度となく目にしてきた。「ひとつは、トレンドに冷静になるというものです。今のトレンドが、例えば極端な話、ピンクのジャンプスーツだったとしても、誰もが一着買うべきだということを意味するとは思いません」

また、ネクタイの幅をラペルの幅に合わせることも重要だという。「ラペルの幅が広いジャケットを着る場合、ネクタイの幅も少し広めにするとうまく引き立つかもしれません」と、デ・ヨングは言う。「同様に、ラペルの幅が狭いジャケットを着る場合は、ネクタイを細身にすると調和の取れたバランスになります」

このルールはシャツの襟にも当てはまるとボイヤーは付け加える。「ラペルとネクタイの幅がともに広い場合、シャツの襟も大きめにすると良いでしょう。優れたデザイナーであれば理解している、調和の取れたバランスを得るためのひとつの例です」

From GQ.COM

by Jeremy Freed

Translated and Adapted by Yuzuru Todayama