賃上げ余力があるのは実は中堅企業?~2024年1-3月期の法人企業統計

AI要約

2024年1~3月期の法人企業統計が公表され、労働分配率が話題に。大企業の賃上げ余力が大きいことが報じられている。

労働分配率の計算方法には2種類あり、近年は後者の方法がより労働分配率を高く算出している。

2024年1~3月期の大中小企業の売上高や従業員1人あたり給与の前年比伸び率を比較すると、賃上げの動きが見られる。

賃上げ余力があるのは実は中堅企業?~2024年1-3月期の法人企業統計

【これはnoteに投稿された飯塚 信夫(神奈川大学経済学部教授)さんによる記事です。】

 昨日(6/3)、2024年1~3月期の「法人企業統計」(財務省)が公表されました。本日の日経朝刊は、法人企業統計を用いた労働分配率を算出し、大企業の賃上げ余力が大きいことを報じています。

【大企業、賃上げ余力大きく 昨年度の労働分配率38%で最低】

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 下記のnoteで書いた通り、法人企業統計を用いた労働分配率には2種類の計算方法があります。一つは日経記事が用いている、「人件費÷(人件費+経常利益+支払利息+減価償却費)」。もう一つは、法人企業統計の年報に近い、「人件費÷(人件費+営業利益)」です。近年は経常利益が営業利益を上回ることが常態化しているため、前者より後者の方が労働分配率が高めになります。

 後者の定義に従い、1980年以降の労働分配率の推移を描いたのが下図です。大企業(資本金10億円以上)の労働分配率は1980年代初頭に60%だったのに対し、2024年1~3月期(後方4期移動平均)は55.8%。日経が用いている定義と同様に、低下傾向が顕著といえます。

【法人企業統計に基づく労働分配率、基準を揃えて議論しましょう!】

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 今回、公表された2024年1~3月期の大企業、中堅企業(資本金1億~10億円)、中小企業(資本金1000万~1億円)の売上高、利益、人件費などの前年同期比伸び率をまとめたのが下の表です。

 売上高は大企業のみ前年同期に比べて減少しています。利益率の向上で営業利益、経常利益は大企業、中堅企業、中小企業ともに増加していますが、大企業の伸びは中堅企業、中小企業に比べると劣ります。

一方、従業員1人あたり給与は、従業員給与と賞与の合計額を従業員数で除して算出したものです。下の図は全産業全規模ベースの従業員1人あたり給与の前年同期比伸び率を描いたものです。ブレが大きいものの、最近は90年代初頭並みの賃上げが行われていることがうかがえます。

 規模別にみると、中小企業の賃上げ率が最も高く、大企業がそれに続きます。これらに対して、中堅企業は小さな伸びにとどまっています。人件費の伸びは最も高いのですが、従業員数の伸びも多かったためです(大企業は従業員数が減ってました)。一方で、利益の伸びを考えると、もう少し賃上げもできるようにも思えます。