米軍のアフガン撤収から3年 再び問われる決断の是非 深刻な女性迫害、テロ組織は活発化

AI要約

2021年8月の米軍のアフガニスタン完全撤収から30日で3年。多大な犠牲を伴う「米史上最長の戦争」終結後、イスラム原理主義勢力タリバンによる恐怖支配が続く。

バイデン大統領は感情的理由と政治的意志を背景にアフガン撤収を推進。アフガン政府崩壊後、タリバンが急速に台頭し、米軍撤収は混乱を招く結果となった。

米外交の信頼性が揺らぐ中、トランプ前大統領らが撤退を屈辱と批判。ドーハ合意や指導力の弱体化によって国際政治への影響も懸念されている。

【ワシントン=渡辺浩生】2021年8月の米軍のアフガニスタン完全撤収から30日で3年となった。多大な犠牲を伴った「米史上最長の戦争」の終結は、イスラム原理主義勢力タリバンによる恐怖支配を許す結果となった。女性が迫害され、テロ組織も活発化。米外交の信頼性に深い傷を残した撤収決断は、大統領選を前にその是非が再び問われている。

■指導者が感情的理由で勝利を放棄

バイデン大統領は26日の声明で、約20年に及んだアフガン駐留での米軍の被害は負傷者2万744人、死者2461人に上り、「アフガン人同志とともに、われわれの安全のため全てをささげた」と述べた。

バイデン氏は、副大統領時代に「米軍が永続的なアフガン政府を作り、維持することは不可能」だと確信。大統領就任1年目の21年4月、同年9月までの撤収完了を表明した。米軍トップは当時のガニ政権崩壊を防ぐため2500人の残留を助言したが、バイデン氏は、米中枢同時テロから20年の節目までにアフガン戦争を終結させるという政治的意思を押し通した。

21年5月からの撤収開始で勢いづいたタリバンは、8月15日に首都カブールを制圧。撤収作業中の空港前で米兵13人と住民約170人が殺害される自爆テロを経て同30日深夜、最後の米軍機が離陸した。

「指導者が自らの観念や感情的理由により勝利を放棄した一例」。国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏は本紙に語る。米軍撤収に伴う大混乱は米国の指導力の低下を露呈し、ロシアのウクライナ侵略や他の権威主義勢力による挑発を促す契機となった-との指摘は絶えない。

■ドーハ合意が政権崩壊の起点に

アフガンの米軍撤収は「米史上最大の屈辱的事件」と批判を強めるのは、米大統領選の共和党候補、トランプ前大統領だ。次期大統領の座を争う民主党候補、ハリス副大統領はバイデン氏の撤収決断を「最後まで見守り、支持した人物」(米CNN)とされるからだ。

だが、米軍撤収はトランプ前政権とタリバンが結んだ20年2月の「ドーハ合意」で盛り込まれたものだ。ドーハ合意は米軍の段階的撤収などを条件にタリバンが和平プロセスに参加するとの内容だが、アフガン政府で駐スリランカ大使を務めたアシュラフ・ハイダリ氏は「アフガン政府は交渉から排除され、政府と軍の士気喪失を招いた」と指摘。合意がガニ政権崩壊の起点となったとの認識を示す。