ハマス最高指導者の殺害から1カ月 続くにらみ合い 戦闘激化避けたい当事者

AI要約

イラン支援の反イスラエル民兵組織幹部殺害から1カ月、イランは報復を明言。イスラエルとの緊張が高まる中、両者は戦闘激化を避ける姿勢。

イスラエルがヒズボラ幹部殺害を発表し、イランとの緊張が高まる中、バイデン政権がイスラエルを支援。ネタニヤフ氏は米イラン関係の変化を警戒。

ヒズボラの報復ロケット攻撃で両者の攻防が続くが、人的被害は比較的抑えられている。イスラエルとイラン両者が深入りを避ける「切実な理由」がある。

【カイロ=佐藤貴生】イランが支援する反イスラエル民兵組織の幹部ら2人が殺害されてから約1カ月。イランはイスラエルへの報復を明言しており、パレスチナ自治区ガザを発端とする戦闘が広域化する恐れがある。ただ、民兵組織やイラン側も戦闘激化を避けたい事情を抱えており、波乱含みの神経質な局面が続きそうだ。

イスラエルは7月30日、レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラの幹部を殺害したと発表した。翌31日にはイスラム原理主義組織ハマスのハニヤ最高指導者がイラン訪問中、何者かに殺害された。イスラエルのネタニヤフ政権は殺害に関わったかには触れていないが、この事件でいくつかの利益を得たことは事実だ。

特に、イランがハニヤ氏殺害を受けてイスラエルへの報復を宣言し、バイデン米政権がイスラエルの防衛強化に乗り出した意義は大きい。イランで就任したばかりの改革派、ペゼシュキアン大統領が掲げる対米関係の改善が当面は困難になったからだ。ネタニヤフ氏は以前から米イランの相互接近を警戒していた。

ヒズボラは8月25日、幹部殺害に対する報復としてロケット弾320発超をイスラエルに発射した。イスラエル軍もこの日、100機前後の戦闘機でレバノン国内のヒズボラの軍事拠点40カ所以上を攻撃した。

攻撃の応酬は昨年10月の交戦開始以来、最大規模となったが、死者はレバノンで3人、イスラエルで1人にとどまったもよう。双方が人的被害を抑えるため周到に計算したとみられる。

8月25日付英紙ガーディアン(電子版)は、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸に兵力を投入するイスラエル側だけでなく、レバノンで政党を有するヒズボラも、戦闘が激化すれば痛手を被るとし、両者に深入りを避けたい「切実な理由」があったと報じた。

一方、イスラエルへの報復を誓ったイランも、「限定的で計算された正確な対応」(アラグチ外相)をするといった抑制的なメッセージを発している。

イランは国民の不満拡大を背景に、反米の保守強硬派が選挙で敗北し大統領ポストを改革派に明け渡した。経済再生など内政の課題は深刻で、イスラエルや米国の反撃を招くような報復は回避したい-との分析が多い。

こうした評価は現状を反映したものに過ぎず、内政事情や優先順位の変動により、イスラエルやイランが激しい戦闘にかじを切る可能性は否定できない。なかでもイランは報復を封印すれば「前例」を作ることになりかねず、いずれ何らかの形でイスラエルを攻撃してその事実を国内に宣伝する可能性は残っている。