「なまけもの」「赤ん坊か」 フィリピン華麗なる一族の対立激化

AI要約

フィリピンの政界を揺るがすマルコス大統領家とドゥテルテ前大統領家の対立について。サラ氏が教育相辞任を発表し、マルコス氏との関係が悪化。ICC問題や南シナ海問題が火種となり、国内外で波紋が広がっている。

両家の意見の相違から対立が激化。マルコス氏はICCへの再加盟を検討し、ドゥテルテ氏から批判を浴びる。さらに南シナ海問題でも中国との関係で温度差が広がっている。

フィリピンの政治情勢が一変。国内外での対立が深刻化し、今後の展開に注目が集まっている。

「なまけもの」「赤ん坊か」 フィリピン華麗なる一族の対立激化

 フィリピンでマルコス大統領家とドゥテルテ前大統領家の決裂が話題となっている。エリート一族の対立は中国と領有権を争う南シナ海問題にも飛び火した。一体、何が起きているのか?

 フィリピン政界きっての名家の対立は、ドゥテルテ氏の長女で、マルコス政権の副大統領を務めるサラ氏が6月中旬、兼任していた教育相を辞任すると発表したことで決定的となった。

 サラ氏は、父のドゥテルテ氏と兄のパオロ下院議員、弟でダバオ市長のセバスチャン氏の3人が来年の上院選に出馬する予定だと説明。ドゥテルテ一族が2028年の次期大統領選に向けて、勢力拡大を目指していることを示唆した。

 マルコス氏とサラ氏は22年の正副大統領選で「団結」を合言葉に共闘した。マルコス氏が得票率約6割で圧勝したのは、父親譲りのカリスマ性を持ち、国民に人気が高いサラ氏とタッグを組んだのが大きかったと言われる。

 ドゥテルテ氏側としては、後任のマルコス氏と良好な関係を築くことで影響力を保ち、ドゥテルテ氏が大統領在任中(16~22年)に展開した「麻薬撲滅作戦」に対する国際刑事裁判所(ICC)の捜査を阻みたい思惑があった。

 地元メディアは華麗なる一族の共闘について「利害が対立すれば早々に仲たがいする」と予測していた。関係悪化はまさしくICC問題が大きな要因となったとみられている。

 「麻薬犯罪者は殺しても構わない」と豪語したドゥテルテ氏の麻薬戦争で少なくとも6600人が殺害され、人権団体から大きな批判を浴びた。ドゥテルテ氏は19年、ICCの捜査から逃れようとフィリピンのICC脱退を決めた。

 だがマルコス氏は23年11月、ICCへの再加盟を検討していると突如表明。これに怒ったドゥテルテ氏が、マルコス氏を「麻薬中毒者」「なまけもの」などと呼んで批判した。その後マルコス氏は「ドゥテルテ氏をICCに引き渡すことはない」と語ったが、対立は激化している。

 中国との緊張が高まっている南シナ海問題を巡っても、両者の対立は鮮明となった。

 今年3月、ドゥテルテ氏が中国の習近平国家主席と結んだとされる「密約」が発覚。フィリピンが軍事拠点とするアユンギン礁の補給活動で比側が譲歩するような内容だったとされ、マルコス氏は「ぞっとする」と嫌悪感を示した。

 ドゥテルテ氏は在任中、経済関係を重視する観点から、南シナ海における中国の行動を一定程度、黙認していた。一方、麻薬戦争に批判的な米国とは一時、関係がこじれた。

 対するマルコス氏は就任後、南シナ海で中国側が挑発的な行動を繰り返していることから、相互防衛条約を結ぶ米国との関係を修復。するとドゥテルテ氏は、マルコス氏の姿勢を「米国に泣きつく赤子のようだ」と批判した。

 フィリピンの政治アナリスト、ロナルド・リャマス氏は両者の対立について「南シナ海の緊張や米中間の覇権争いが高まる中で起きており、単なる国内の政治ドラマにとどまらない。ICCの捜査いかんでは、国民の間で人気が高いドゥテルテ氏がなりふり構わない行動に出る可能性もある」と指摘する。【バンコク石山絵歩】