尹錫悦師団の手法…手もとにある石を全部投げる、いくつかは当たる

AI要約

イ・ジェミョン代表が第三者贈賄、外国為替取引法違反、南北交流協力法違反の疑いで再び起訴され、4つの裁判を抱えることになった。

検察の捜査や捜査権についての問題に焦点を当て、検察改革の必要性が指摘される状況である。

国民の力の議員らが検察改革を推進し、検察の絶対権力を止めるための取り組みが行われている。

尹錫悦師団の手法…手もとにある石を全部投げる、いくつかは当たる

 共に民主党のイ・ジェミョン代表が6月12日、第三者贈賄、外国為替取引法違反、南北交流協力法違反の疑いで、またも起訴されました(代表職からは退きましたが、そのまま代表としておきます)。イ代表は同時に4つの裁判を抱える羽目になりました。

 1つ目、公職選挙法違反事件です。大統領選挙の過程で城南(ソンナム)都市開発公社のキム・ムンギ開発第1処長のことは知らなかった、栢ヒョン洞(ペッキョンドン)の用地の用途変更は国土交通部に圧力をかけられたためだと言ったことが虚偽だという容疑です。

 2つ目、大庄洞(テジャンドン)、栢ヒョン洞、慰礼(ウィレ)新都市、城南FC事件です。検察が2回に分けて起訴したものを裁判所が併合しました。4つの事件が併合された分、時間がかかる裁判です。

 3つ目、偽証教唆事件です。京畿道知事時代の2018年に、自身の検事詐称に関する選挙法違反の裁判で証人に虚偽の証言を行うよう要求したという容疑です。

 4つ目、サンバンウル北朝鮮送金事件です。去年9月、検察は栢ヒョン洞、偽証教唆、北朝鮮送金事件で拘束令状を請求しましたが、裁判所は棄却しました。検察はその後、栢ヒョン洞、偽証教唆事件はそれぞれ起訴しました。北朝鮮送金事件は捜査を続けるという理由で手もとに置いていましたが、イ・ファヨン元副知事に一審判決が下されたことを受け、追加で起訴したのです。

 イ・ジェミョン代表の北朝鮮送金事件での起訴を機として、メディアと政界の雰囲気は一変しました。東亜日報のイ・ギホン大記者は6月21日付の同紙に、「『イ・ジェミョン式成功』が青少年教育と共同体の価値観に及ぼす影響」と題するコラムを書いています。

 「『イ・ジェミョン問題』は道徳的に目を覚ませと要求するだけでは解決できない状況に至った。問題を解決する唯一の方法は、司法システムが任を全うすることだ」

 ユ・サンボム、チュ・ジヌ、チェ・ボユンら、国民の力の「イ・ジェミョン司法破壊阻止特別委員会」の議員たちは6月19日に最高裁を訪問し、イ・ジェミョン代表に対して迅速に判決を下すよう求めました。彼らの主張と行動からは、裁判によってイ・ジェミョン代表を政治の舞台から追い出すべきだという強い意志と自信が読み取れます。

キム・ゴンヒ、ハン・ドンフンは捜査しない検察

 しかしです。いくら考えてもおかしいことがあります。みなさんはイ・ジェミョン代表のことを、実に4つの裁判を同時に抱えるほどとんでもない犯罪者、「希代の詐欺師」だと思いますか? イ・ジェミョン代表にかけられている容疑は、ほとんどが城南市長、京畿道知事の職務や選挙と関係しています。巨額の賄賂を受け取ったわけでもなく、道徳的に大きく非難されるべき重大犯罪でもないように思えます。一体どうしてイ・ジェミョン代表は4つの裁判を同時に抱えることになったのでしょうか。

 イ・ジェミョン代表は2022年3月9日の大統領選挙で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補に0.73ポイント差で敗れました。検察の起訴はすべて大統領選挙後に行われています。大統領選挙でイ・ジェミョン代表が勝っていたら、検察は彼を起訴できていたでしょうか。大統領には不訴追特権があります。それでも就任前には起訴が可能です。検察はイ・ジェミョン当選者を起訴できたでしょうか。私はできなかったと思います。起訴はおろか捜査もまともにしなかったはずです。結局、イ・ジェミョン代表に対する検察の苛酷な捜査と起訴には、野党弾圧と政治報復の性格があるとみなければなりません。

 イ・ジェミョン代表が有罪か無罪かは、最終的に裁判で決まるでしょう。追加起訴の可能性もあります。イ・ジェミョン代表がすべての裁判ですべての容疑について無罪を勝ち取ることは容易ではなさそうです。道徳的に大きく非難されるべき重大犯罪ではなくても、判事が有罪判決を下す可能性はあるからです。イ・ジェミョン代表としては悔しいでしょうが、それが現実です。

 このような不合理な現実は、検察が捜査権と起訴権を独占しているから起こるのです。元検察総長の大統領のせいで起こるのです。いわゆる「尹錫悦師団」のせいで起こるのです。元検事のある政治家が以前、私にこんな話をしてくれたことがあります。

 「尹錫悦師団は過度に過酷な捜査のやり方が検察内でも批判されていた。本来、検察の捜査は狙い撃ち捜査にならざるを得ない。ほこりを払えば様々な疑惑が出てくるが、その中の軽微なものは目をつぶってやり、主要な疑惑は承服させる。事実上、プリーバーゲニング(司法取引)をしているのだ。そうすれば被疑者も検事を恨まない。だが尹錫悦師団は、ほこりを払って出てくるすべての容疑をすべて起訴する。後で裁判所が無罪を言い渡すことは気にもかけない。石を数十個投げれば、そのうちいくつかは相手の頭に当たる。それが彼らの手法だ」

 尹錫悦師団の標的となり、ほこりが払われた人物の代表例は、チョ・グク元法務部長官(現祖国革新党代表)です。2019年、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はチョ・グク大統領府民政首席を法務部長官候補に指名しました。国会人事聴聞会の手続きが進められていたところ、尹錫悦検察総長が家宅捜索令状の発行を受けて強制捜査に着手しました。大統領の人事権行使に検察が介入するという、前代未聞の事件が起きたのです。その後のことは誰もがよく知っています。結局、尹錫悦師団はチョ・グク元長官、配偶者のチョン・ギョンシム元教授、娘のチョ・ミンさんを起訴しました。大邱市(テグシ)のホン・ジュンピョ市長の表現通り、一家を「屠殺(とさつ)」したのです。

 もちろんチョ・グク元長官、チョン・ギョンシム元教授、チョ・ミンさんにも処罰を受けるべき内容があるでしょう。しかし、尹錫悦師団によるチョ・グク元長官一家の捜査はどう見ても過剰捜査です。4・10総選挙で祖国革新党が旋風を起こし、実に12議席を確保したことからも、かなりの数の韓国の有権者が私と同じように考えているように思えます。

 尹錫悦師団がイ・ジェミョン代表と祖国革新党のチョ・グク代表におこなっているように他の被疑者たちも徹底的に捜査していたとすれば、公正さを疑われることはなかったでしょう。しかし、尹錫悦師団は尹錫悦大統領、キム・ゴンヒ女史、ハン・ドンフン前法務部長官ら、「身内」はまったく捜査していません。尹錫悦師団の正義は、他人には苛酷で自分たちには寛大な「偽の正義」だったのです。

国民の力の議員総会でも可決された検察改革案

 どうすべきでしょうか。検察を改革しなければなりません。検察が独占している捜査権と起訴権を分離しなければなりません。検察の直接捜査権を廃止しなければなりません。今年5月14日にメディアトマトが発表した世論調査では、「検察の捜査権と起訴権の分離」に賛成が53.1%、反対が29.6%、よく分からないが17.3%でした。一般国民も検察の捜査権と起訴権を分離する時が来たと考えはじめているのです(中央選挙世論調査審議委員会のウェブサイト参照)。

 政界での検察改革の急先ぽうは祖国革新党です。祖国革新党は6月26日、公訴庁法、重大犯罪捜査庁法、捜査手続き法、刑事訴訟法の「検察改革4法」を発表しました。検察の捜査権を新設の重大犯罪捜査庁に移管するとともに、検察を起訴と公訴維持だけを担う公訴庁とする、というのが要です。

 共に民主党の検察改革タスクフォース(団長:キム・ヨンミン議員)も検察改革案を準備しています。検察庁を廃止して公訴庁を新設する案と、検察庁は存続させるものの起訴権だけを持たせ、捜査権は国家捜査本部や重大犯罪捜査庁へと移す案を検討中です。

 祖国革新党と民主党の検察改革法案が国会に提出されれば、法制司法委員会の審議を経て、すぐに本会議に付されるとみられます。検察改革案が今夏の政局の最大の争点になりそうです。

 国民の力の議員たちは検察改革に無条件に反対してばかりいる人たちなのでしょうか。そうではありません。2022年の3・9大統領選挙直後の4月22日に、与野党は検察改革に突如合意しています。

 「検察の直接捜査権と起訴権は分離する方向で行く。検察の直接捜査権は一時的なものであり、直接捜査の場合も捜査と起訴の検事は分離する」

 「検察以外の捜査機関の犯罪対応力が一定水準に達すれば、検察の直接捜査権は廃止する」

 「法案審査権を持つ司法改革特委を設置する。同特委は仮称『重大犯罪捜査庁』(韓国型FBI)など、司法システム全般について深く議論する。重捜庁は、特委設置から6カ月以内に立法措置を完了し、立法措置後1年以内に発足させる。重捜庁が発足すれば、検察の直接捜査権は廃止する」

政治介入する検察を止めるには

 どうですか。驚いたのではないでしょうか。パク・ピョンソク国会議長の仲裁案です。民主党のパク・ホングン院内代表と国民の力のクォン・ソンドン院内代表が議員総会の追認を経て発表ています。しかし、法曹界の既得権勢力と保守系新聞が強く反発し、尹錫悦当選者がこっそり反対に転じたことで、なかったことになっています。

 そのため、尹錫悦大統領は今回も、ひとまずは検察改革法案に拒否権を行使する可能性が高いとみられます。問題はその次です。国民の力の中には2022年4月に検察改革案に同意した議員が残っています。彼らも検察が今のような絶対権力を持ち続けるのは問題だと考えているでしょう。国会本会議の再議決投票は無記名で行われます。国民の力は果たして否決できるでしょうか。

 まとめます。検察改革はこの時代の最優先課題です。検察を絶対権力集団のままにしておけば、検察は今後も大韓民国の政治を牛耳ろうとするでしょう。検察に立ち向かう政治家は誰もがイ・ジェミョン代表やチョ・グク代表のようになりえます。検察王国を止めなければなりません。そのためには、まず彼らが持っている刀を取り上げなければなりません。そうすることでようやく国民は主権を行使できるのです。民主主義を守れるのです。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )