韓国統一部長官の「北朝鮮崩壊講演」、極右ユーチューバーの本領発揮か

AI要約

北朝鮮の政権が変化しており、文化的アプローチが重要だという統一部長官の講演内容。韓国ドラマやK-POPが北朝鮮で人気で、若者層の考え方に影響を与えている。また、北朝鮮政権や社会の失敗についても言及し、谷底にある北朝鮮の状況を指摘している。

統一部長官はトークライブを通じて北朝鮮の実情を知らしめる活動を行っており、脱北者団体や保守メディアとの関係も深い。その行動や主張には批判もあるが、トークライブ活動は今後も続く見通し。

統一部は北朝鮮の実情を知らしめるために新たなチームを設立し、今後もトークライブの展開を予定している。北朝鮮問題に取り組む統一部の取り組みやキム長官の行動に注目が集まっている。

韓国統一部長官の「北朝鮮崩壊講演」、極右ユーチューバーの本領発揮か

 「北朝鮮は今、下から私たちが期待する方向へと段々変化しています。これまで進めてきた政策が効果をあげているということです」

 「韓国ドラマが北朝鮮に流入し、広く知られるようになり、北朝鮮住民の考えに大きな変化が生じました。北朝鮮の専制独裁体制の最も大きな変化をもたらすのはドラマですね。Kドラマ、K-POPが好きなのは私たちだけでしょうか。北朝鮮の人たちも好きです。北朝鮮問題にアプローチする際には、軍事・経済的なものも重要ですが、文化的なアプローチも重要です」

 6月24日、キム・ヨンホ統一部長官が亜洲大学で行った特別講演「北朝鮮政権の失敗」で述べた内容です。「北朝鮮が崩壊している。だから、韓国政府の政策は間違っていない」というのがこの日のキム長官の講義の主な内容でした。亜洲大学統一サークルのメンバーなど学生10人余りと中高年層で20人余りなど40人くらいが集まった中、キム長官は約1時間ほど講義を続けました。私も亜洲大学の講演会場に入って講演を聞いてみました。

 キム長官の講演は、北朝鮮政権と社会がどれだけ失敗したかを説明するのに重点が置かれていました。キム長官は「北朝鮮政権の失敗」と題したチャプターを皮切りに講演を始めました。

 「1990年代に東欧圏が崩壊する以前にも、北朝鮮では腐敗が非常に構造化されていた」という話から北朝鮮の社会を90年代初めの東欧と比較する一方、「配給制が完全に崩壊した。北朝鮮の社会主義経済システムがかなり揺らいでいる」として北朝鮮の経済体制の崩壊を示唆するような発言もしました。こうした内容は、野党「共に民主党」のチョ・ジョンシク議員室(国会外交統一委員会所属)が統一部から受け取った講義資料にもそのまま含まれていました。

 さらに、北朝鮮の若年層の間で韓国ドラマや歌の人気が高いため、「文化的アプローチに気を使わなければならない」とも主張しました。統一部長官が韓国のドラマや歌を北朝鮮に流入させるべきだと主張しているようにも取られる内容です。脱北者団体は最近も、大型風船に韓国ドラマの映像などの入ったUSBなどを入れて北朝鮮に飛ばしており、これを煽っているかのように受けとめられる余地もあります。

 キム長官は昨年7月に就任した後、大学や公共機関などをいくつも訪ねて講演を行っています。この日、キム長官は「長官に就任して大学をよく訪れたが、亜洲大学が10校目」だと述べました。キム長官は個人的な活動として決めた大学の講義を除いても「北(book)ストーリー・トークライブ出前講演」という名前の事業を作り、公共機関や企業、学校などに出向き講演をしています。キム長官は今年上半期だけで13カ所を訪れ、トークライブを開いたそうです。

 キム長官はなぜ「北朝鮮の実情を世に知らしめるトークライブ」に力を入れているのでしょうか。

 彼は長官になる前、誠信女子大学の政治外交学科の教授でありながら、保守ユーチューブチャンネルを運営するユーチューバーでもありました。このチャンネルは約24万人の登録者を保有していました。キム長官はユーチューブを通じても敵対的な北朝鮮観を繰り返し示してきました。キム長官は自身のユーチューブチャンネルで、「北方限界線(NLL)を放棄した南北軍事合意書を廃棄すべきだ」と主張する一方、保守メディア「ペンアンドマイク」への寄稿では、「北朝鮮問題の根本的な解決は北朝鮮の全体主義体制の破壊によってのみ実現できる」と主張したこともあります。

 キム長官のこうした活動はその後も続きました。

 長官就任後、北朝鮮住民の実状を知らせるユーチューブチャンネル「Kの公式」を新設しました。このチャンネルにはコ・ヨンファン国立統一教育院長が出演しますが、北朝鮮の外交官として脱北したコ院長は、キム長官が運営していたユーチューブチャンネルの固定パネリストでした。

 ユーチューブとオフラインで旺盛にトークライブを開いているキム長官について、激しい批判の声があがっています。

 朝鮮半島と周辺の国際情勢が厳しい中、南北関係の主務長官である統一部長官がトークライブに集中するのが、果たして緊急で重要なことなのか、というものです。これに先立ち、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6月19日、平壌(ピョンヤン)で首脳会談を行い、どちらかが侵攻された場合に軍事援助を行う内容の包括的戦略パートナーシップ条約を締結しました。脱北者団体による北朝鮮へのビラ散布や北朝鮮による汚物風船の散布、韓国軍による北朝鮮向け拡声器放送の再開、北朝鮮の弾道ミサイル発射などが相次いでいます。

 キム長官のこうした行動について、統一部長官の本分に反するという指摘もあります。

 共に民主党のチョ・ジョンシク議員は「北朝鮮の実情を知らせるというキム長官の講演を聞く限り、キム長官が統一部のトップなのか、極右派の脱北者団体のトップなのかわからないほど」だとし、「統一部が極右派の脱北者団体のように運営されていることを非常に残念に思う。国民が疑問を持つ統一教育を自画自賛し、国民の不安、安全保障上の不安を引き起こすだけのキム長官の懸念すべき行動は直ちに中止されるべきだ」と批判しました。キム長官は人事聴聞会でも過去の極右発言をめぐる波紋や資料提出の不備などを問題視する野党の反対で、経過報告書が採択されませんでした。

 こうした懸念にもかかわらず、キム長官の「トークライブブーム」はこれからも続くものとみられます。

 統一部はことし、北朝鮮の実情を知らしめる事業のため、「企画タスクフォース(TF)チーム」まで部内に新設しました。さらに、今年の統一認識と北朝鮮理解向上の事業に総額12億2600万ウォン(約1億4200万円)を策定しましたが、このうちトークライブに3億6000万ウォン(約4190万円)が割り当てられました。キム長官は下半期に首都圏以外の地域の拠点大学を中心にトークライブを続ける予定です。

シン・ヒョンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )