米経済史学者ハロルド・ジェイムズが指摘する、ドルが基軸通貨ではなくなる可能性「金価格の高騰が意味するのは“世界秩序の変化”だ」

AI要約

金価格が急騰し、史上最高価格を更新している理由について解説。国際通貨システムの変化や財政不安、金の投資価値について言及。

過去の金の歴史と現在の金価格の関連性について述べ、不安定な状況下で金価格が上昇するメカニズムを解説。

1990年代の金価格低迷から2000年代以降の急騰の過程を振り返り、金価格の変動要因について考察。

米経済史学者ハロルド・ジェイムズが指摘する、ドルが基軸通貨ではなくなる可能性「金価格の高騰が意味するのは“世界秩序の変化”だ」

金価格が急騰し、ドル建てでも円建てでも史上最高価格の更新が続いている。その価格はまだ上がるとの指摘もあるが、なぜこれほどまでに追い風が吹いているのだろうか。

米国の経済史学者ハロルド・ジェイムズが、金の歴史的な意味を振り返りながら、現在の金価格上昇の理由を解き明かす。

最近、金価格が高騰している。これが象徴するのは、世界秩序の変化と、紛争と不確実性の新時代の到来だ。各国政府と中央銀行は長い間、この貴金属を通貨の安定と経済の安全保障のための潜在的な源泉と見なしてきたが、今回も例外ではない。国際通貨システムのなかで金が再び脚光を浴びているのだ。

いまから50年以上前、リチャード・ニクソン米大統領が金ドル本位制を廃止し、金ドル交換を停止した。そうして貴金属との引き換えが約束されない不換紙幣の新時代が始まった。

しかしいま、分散型台帳技術やブロックチェーンなどの新しいテクノロジーの出現や、各国の財政不安によって、このシステムは揺らいでいる。そんななか、ドル建ての金価格は史上最高値を記録し、1オンス(28.3グラム)あたり2400ドル(約38万円)以上をつけた。

積極的に金に投資をする人は、金は長期的に資産の価値を維持するための理想的な投資であると主張する。しかし、金だけが特別に安定と考えるのは間違いだ。それどころか、金の価格は不安定なときに上昇する。他の資産価値が不安定になると、世界は金に保証を求めるようになるのだ。

冷戦が終結した1990年代、新たな平和と安定の感覚が生まれて金価格は低迷した。国際政治学者のフランシス・フクヤマが『歴史の終わり』で自由民主主義の勝利を訴えたのが象徴的だ。2000年代に入ると、金価格は1オンスあたり300ドル(当時のレートで約3万6000円程度)を下回った。1970年代からの金価格の上昇率は、一般的なインフレ率を下回ったほどだった。

しかし、2008年の金融危機と新型コロナウイルスによるパンデミックの発生後に価格は急騰し、2024年に入ってまた急騰した。