欧州「政治地図」どう変わる? 極右は「拡大中」だが不協和音も…現実路線と過激化の二極分化

AI要約

極右・右派ポピュリストが欧州議会選で好成績を収める中、フランスやドイツでは極右勢力が台頭している。マクロン大統領は国民議会解散を宣言し、イタリアではイタリアの同胞党が首位に立った。一方、ドイツのAfDはスキャンダルや過激発言で物議をかもしている。

極右勢力の中でも異論が出るなか、ルペン氏やメローニ首相がより穏健な姿勢を見せる一方、ショルツ首相らは民主主義的価値観の防衛に奔走している。キーパーソンの発言や行動が注目を浴びる中、欧州議員選挙には様々な展望が広がっている。

中道勢力の結束が不可欠であり、欧州議会における多数派を形成することが現実的な選択肢として浮かび上がっている。移民・難民問題を含めた厳格な政策が求められるなか、極右・右派ポピュリストとの連携も当面の課題となる。

[ロンドン発]欧州連合(EU)欧州議会選(6月6~9日、定数720)で極右・右派ポピュリストの「欧州保守改革グループ」(ECR)73議席(議席占有率10.1%)、「アイデンティティーと民主主義」 (ID)58議席(同8.1%)とそれぞれ前回の9.8%、7%を上回った。

フランスでは脱悪魔化を進めてきたマリーヌ・ルペン氏の「国民連合」(RN)31.4%、エリック・ゼムール党首率いる「再征服」のグループ5.5%と極右が過去最高の得票率を記録。エマニュエル・マクロン仏大統領は6月9日、国民議会(下院、定数577)の解散総選挙を宣言した。

国民議会解散は1997年のジャック・シラク大統領以来という大ギャンブルである。マクロン大統領は「今こそはっきりさせる時だ。わが国には穏やかに調和を持って行動するための明確な多数派が必要だ」と決意をみなぎらせた。第1回投票は6月30日、決選投票は7月7日だ。

■メローニ伊首相は現実路線で支持広げる

イタリアではジョルジャ・メローニ首相率いる「イタリアの同胞」が28.8%と首位に立った。同党はネオ・ファシズムの流れを汲む。昨年、同国には15万5000人以上が不法入国し、メローニ首相はアルバニアで難民申請を処理する英国と同じ「ルワンダ方式」を導入した。

イタリア当局が海上で救助した難民を年間最大3万6000人収容する計画だ。収容施設はイタリアの費用で建設され、同国の法律に基づき運営される。人権問題を引き起こす恐れがあるとして、国際人権団体から「費用のかかる残酷な茶番」と批判の声が上がる。

「イタリアの同胞」は欧州懐疑派だが、メローニ首相はイタリアのEU離脱に反対する現実主義者。ウクライナ支援でもEUと足並みをそろえ、親露派の反逆児ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相、銃撃され重傷を負ったスロバキアのロベルト・フィツォ首相とは一線を画する。

■極右の中でも嫌われる「ドイツのための選択肢」

ドイツでは極右「ドイツのための選択肢」(AfD)が致命的なスキャンダルにもかかわらず15.9%の票を得た。中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の30%に次いで2位につけ、オラフ・ショルツ独首相率いる社会民主党(SPD)の13.9%を上回った。

AfDはドイツ国籍を持つ人を含む多様な民族背景を持つ何百万人を出身国に強制送還する「再移民」計画を支持していると疑われている。昨年11月にポツダムで開催された極右政治家やネオナチが出席した秘密会議で話し合われたとされる。

ナチスを思い起こさせるため、ドイツ社会に広範な怒りを巻き起こした。ショルツ首相は「ドイツは出身国や肌の色にかかわらず、すべての市民を保護する」と強調した。AfDの非合法化を求める声が高まり、極右台頭に対する民主主義的価値観の防衛を巡る緊張を浮き彫りにした。

■「ナチス親衛隊全員が犯罪者ではない」

AfDのスキャンダルはこれだけではない。欧州議会選の筆頭候補者マクシミリアン・クラフ氏は「ナチス親衛隊(SS)90万人全員が必ずしも犯罪者ではない」と発言した。クラフ氏は第二次大戦中、強制収容所の警備が主な任務だったSSの一部はただの農民だったと唱えた。

AfDの主要メンバー、ビョルン・ヘッケ氏は公の場でナチスのスローガン「すべてをドイツのために!」を使用したとして1万3000ユーロの罰金を科せられた。AfDは欧州議会の会派「アイデンティティーと民主主義」から追放された。

仏「国民連合」や「イタリアの同胞」が過激イメージを脱し、より穏健な姿勢を見せようとする中、ルペン氏は「AfDと席を共にするのはもうやめたい」と絶縁を宣言した。ルペン氏はホロコースト否定論で有罪判決を受けた父親を党から追放し、EU離脱の主張も取り下げている。

■欧州委員長「イタリアの同胞」との連携も視野

しかし欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「国民連合とAfDは名前こそ違えど、ウラジーミル・プーチン露大統領の友人であり、欧州を破壊したいという点では共通している」と述べ、2期目続投に向け「イタリアの同胞」との連携も視野に入れる。

極右・右派ポピュリストが現実路線に方針転換するのは権力に近づき、掌握するための方便に過ぎないのか。それともネオリベラリズムとグローバリゼーションの敗者を救済するためなのか。メローニ首相は良くてルペン氏は悪いのか。筆者には判断がつかない。

しかし右も左も含めて中道勢力が結束して欧州議会の多数派を形成できなければ、脱悪魔化した極右・右派ポピュリストとの協力はより厳格な移民・難民対策も含めて現実的な選択肢になる。