欧州議会選で見えた現状、欧州政界の「中心」は徐々に右寄りに

AI要約

欧州の右傾化が進んでおり、極右政党が議会で躍進している。しかし、中道派は引き続き多数派を維持している。

各国の内政状況が欧州議会での協力態勢に影響を与えており、極右勢力の台頭が欧州政治に影響を及ぼしている。

欧州議会選挙や各国の選挙での結果から、欧州各地で中道勢力を失う傾向が見られる。

欧州議会選で見えた現状、欧州政界の「中心」は徐々に右寄りに

(CNN) 欧州の右傾化は長い道のりだった。欧州の主流派は、かつはごく少数派と見られていた欧州連合(EU)懐疑派の意見を徐々に受け入れつつある。

極右勢力は欧州議会選挙で躍進すると見られている。数字だけで言うと控えめに見えるかもしれないが、その意義は大きい。

今回の選挙結果で、EU機関を独占していた親EU主流派の前に大きな壁が立ちはだかった。

極右政党の躍進は予想外というわけではないし、EUにとって生存の危機をもたらしているわけでもない。だがこの先数年、EUに懐疑的な右派陣営が組織の方向性についてかじ取りを担うことになるかもしれない。

欧州議会は引き続き中道政党が多数派を維持すると見られているが、台頭する極右勢力への対抗手段として、今後24時間で「大連立」の協議が行われることになるだろう。極右の大躍進が続く中、中道の会派は依然リードを保っている。

表向きは親EU政党の勝利と言える。数字だけ見れば中道連立はなお健在だ。中道右派の「欧州人民党」、中道左派の「社会民主進歩同盟」、中道リベラル会派の「欧州刷新」は、欧州議会の三大政治会派だ。ここに親EU派「緑の党」を加えれば、中道派は圧倒的大多数を占める。

右派の「欧州保守改革」と「アイデンティティーと民主主義(ID)」の躍進を考慮しても、主流派の親EU中道陣営は欧州議会で十分優位な議席数を維持している。

しかし、欧州政治の流れは必ずしも欧州議会内で決まるわけではない。そもそも中道陣営が連立を望むかどうかも分からない。

これら中道会派はいずれも親EUの立場を取っているが、政策面ではことごとく意見が異なる。国内の政情が極右に移行しつつあることから、中道右派が欧州レベルでも極右との協力態勢に次第にひかれていく可能性もある。

これにより、EUの行政を担う「欧州委員会」の次期委員長任命にも難題が立ちはだかることが予想される。任命の期日までは数カ月あり、政治的駆け引きの時間はたっぷりある。中道右派と極右の面々が協力する場面もありそうだ。

似たような力関係は政策決定の採決でも見られそうだ。欧州議会では連立を組むことはあまり見られない。欧州議員はケース・バイ・ケースで票を投じるのが常だ。中道右派がウクライナ支援をはじめとする問題で左派と足並みをそろえる一方で、移民対策や気候政策では極右と手を結ぶというのはあり得ない話ではない。

EU議会内での政治会派の協力体制を左右するのは、欧州レベルでの政情だけではない。各加盟国の内政状況が、欧州議会での協力態勢に圧力となってのしかかるのは避けられないだろう。

EU加盟27カ国中13カ国の首脳は、欧州議会の右派会派に所属している。オランダで間もなく新政権が誕生する見通しで、IDのメンバーが政権を率いる可能性がある。中には首脳が欧州政治会派に属さない国もあるが、そうした首脳も全体的には右派思想に同調している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は極右ライバルのマリーヌ・ルペン氏に大敗を喫すると予想されているが、これを受けて、今月末に解散総選挙を実施すると発表した。

ルペン氏の影響で、マクロン氏もフランス国内では右派に傾かざるを得なくなり、政権の発言も次第に反移民・反イスラムの色合いを帯びている。2027年に控えたフランス大統領選では、ルペン氏が一気に権力を握る可能性もある。

9日の欧州議会選挙の結果は、右傾化が突然一気に起こったわけではなく、じわじわと段階的に行われてきたことを示している。欧州政治の中心は、長い年月をかけて右に傾いてきた。

それが最も顕著に表れた最近の例が、EU政界の主役に躍り出たジョルジャ・メローニ氏だ。22年、メローニ氏はイタリア首相に任命され、同氏率いる国内政党「イタリアの同胞」は、第2次世界大戦中のファシスト指導者ベニート・ムッソリーニ氏以来、最も右寄りの政権となった。

EU当局者は当初、メローニ氏がEU撲滅の旗頭になるのではと警戒していた。就任後のメローニ氏はEUのウルズラ・フォンデアライエン委員長を支持し、ウクライナ支援などの問題では他の首相と足並みをそろえた。

メローニ氏は手にした影響力を利用して、自分に最も重要な問題、とくに移民問題で、EU政治の流れを変えようとしている。

はた目にも明らかにEU懐疑主義がピークを迎えたのは、おそらく16年のブレグジット(英国のEU離脱)をめぐる国民投票だろう。長年にわたる英国内政の変化の末、中道右派は極右の影響力を回避する方向へ移行し、結果的にEU離脱に至った。

当時の英国の状況と現在の状況が違うのは、EU懐疑派はもはやEU離脱を望まず、EUを支配しようとしている点だ。

今回の選挙速報をこうした背景に照らし合わせ、数カ月後、数年後に控えた欧州各国の選挙に目を向けると、EU中道の方向転換がより現実味を帯びてくる。

欧州議会選挙でEU自体が焦点になることはまれだ。選挙は加盟27カ国で、それぞれの国内情勢を背景に行われる。欧州議会選挙はしばしば国内政権への抗議票として利用され、国内で政権を取れない政党が健闘する。こうした政党が実際には何もできないことを、有権者も分かっているからだ。

だが今回の選挙結果から、欧州各地では今もなお、中道勢力を道連れにして、右傾化が少しずつ進んでいることがうかがえる。

本稿はCNNのルーク・マクギー記者による分析記事です。