【阪神】巨人戸郷翔征「ノーノー」の裏に紙一重の失策 及川雅貴の打席でぶつかり合ったプロの技

AI要約

阪神は24日の巨人戦で戸郷翔征投手にノーヒットノーランを喫し、及川雅貴投手がタイミング的にアウトか微妙な場面で出塁した。

及川の快足と戸郷のフィールディング能力による紙一重のプレーが大記録に影響を与えた。

記録員の判断基準や選手の特性が交錯し、プロ中のプロの技がネット裏でぶつかり合った。

<虎を深掘り。>

 大記録の裏で、紙一重のプレーがあった。

 阪神は24日の巨人戦(甲子園)で、戸郷翔征投手(24)にノーヒットノーランを喫した。相手の2失策と1四球で3人が出塁したのみで、完璧に封じられた。日刊スポーツの随時企画「虎を深掘り。」の第8回は、3回に戸郷の悪送球で出塁した及川雅貴投手(23)の打席に注目。ネット裏で判断した記録員の判断基準、及川の思にも迫った。【取材=中野椋、村松万里子】

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 何かが1つでもズレていれば、大記録を阻止できていたかもしれない。

 3回表2死で阪神及川が、カウント1-1から巨人戸郷の外角148キロを強振。三塁方向へボテボテのゴロとなった。これに戸郷がダッシュし、一塁へスローイング。懸命の送球はファウルゾーン側へそれて転がった。一塁手の岡本和が捕球していもタイミングは微妙だったかもしれないが、大型ビジョンには「Eランプ」がともった。記録は戸郷の悪送球で、阪神にとってはこの日初めての出塁だった。

 戸郷はその後、9回を投げ切り無安打無得点試合を達成した。“タラレバ”を言えば、3回のこの「失策」が明暗を分けたのではないか。ズバリ、「あれは内野安打ではなかったのか」という意見だ。

 ネット裏で記録をつけていたのが日本野球機構(NPB)の足立大輔記録員(32)。その判断理由は、極めてシンプルなものだった。「送球がそれずに、普通に投げていれば、タイミング的にアウトだという判断です」。送球がそれたからこそ、及川が出塁できたというジャッジ。「逆に言えば、あれを内野安打にする理由がない」と振り返る。

 隣の席にいるサブの記録員にも確認。ダブルチェックを経ての「Eランプ」だった。試合後にも映像を見返し、再度意見を照らし合わせたが、記録訂正とはならなかった。

 足立記録員は「あれがセーフティーバントであれば、また変わっていたかもしれません」と想像もする。記録員も人間。「セーフ」を狙う前提のセーフティーバントであれば、印象が変わっていた可能性があったことを否定しなかった。ただ、今回は「あれは完全な凡打」と言うように、送球がそれていなければ、アウトという判断。戸郷の送球時の体勢も大きく崩れてはおらず、決して無理矢理な送球ではなかったことも判断材料の1つになった。

 アウトセーフの際どい判定を演出したのは、及川の快足だ。19年12月に行われた球団の新人体力測定の30メートル走で、同期入団トップの3秒91をマーク。俊足の男が一塁に近い左打席からの始動。2死で迎えた打席で4回表の投球を控えていながら、懸命に走った。後日、左腕は「全力は(けがなどが)怖かったので、(少し落として)ほぼ全力で走りました」と回想。「走るのは得意。入団時から体重が増えたので遅くなりましたけど」と言いつつ「やっぱり塁に出たいじゃないですか。自分がアウトなら3者凡退なので」。チームの流れを変えるために必死だったと明かした。

 送球ミスしたとはいえ、戸郷のフィールディング能力にも触れたい。日刊スポーツの巨人担当いわく「守備はめちゃくちゃうまい」。戸郷だからこそ、マウンドから最短距離で打球に向かい、間一髪アウトを取れる状況にまで持っていけたといえる。動きが俊敏でなければ、そもそも一塁へ投げることなく、内野安打となっていた可能性もある。

 足立記録員は11年目のキャリア。22年4月にはロッテ佐々木の完全試合を担当するなど、自身の判定が明暗を分ける“修羅場”を経験してきている。投手戸郷、打者及川の特性によって生まれた紙一重のプレーを一瞬で冷静に見極め、そして失策と判断した。

 グラウンドで、そしてネット裏で。大記録の裏で、プロ中のプロの技がぶつかり合っていた。