宝富士が行司軍配差し違えで命拾い 1敗を死守「きょうも運が味方してくれた」/夏場所

AI要約

大相撲夏場所8日目、宝富士が竜電を寄り切って7勝目を挙げ、首位に並ぶ。琴桜や平幕力士たちも優勝争いに加わる展開となっている。

宝富士は1月の初場所で負け越し十両へ転落したが、虚無感を乗り越えて楽しい相撲を取っている。伊勢ケ浜部屋では叱られ役としての役割を果たし、部屋全体の雰囲気を引き締めている。

部屋の連覇が実現すれば、九州場所以来の快挙となる。部屋の宝がこれからもドラマを生み出していく可能性がある。

宝富士が行司軍配差し違えで命拾い 1敗を死守「きょうも運が味方してくれた」/夏場所

大相撲夏場所8日目(19日、両国国技館)西前頭16枚目の宝富士(37)は竜電(33)を寄り切って7勝目を挙げ、大栄翔(30)をはたき込んだ新三役の小結大の里(23)と1敗で首位に並ぶ。大関陣は安泰。琴桜(26)が王鵬(24)を押し出して6勝目。豊昇龍(24)は宇良(31)を寄り倒して5勝3敗とした。トップの2人を、琴桜とともに平幕の大栄翔、宇良、御嶽海(31)、湘南乃海(26)が2敗で追う。

土俵際の投げの打ち合いに物言いがつく。「取り直しもあるかもしれないと、呼吸を整えて待っていた」。37歳の心掛けに、勝利の女神が振り向いた。平幕宝富士が行司軍配差し違えで1敗を守り、優勝争いの最前線に踏みとどまった。

左四つ。竜電の掛け投げに宝富士がすくい投げを打ち返す。このとき竜電の左足指がわずかに出ていた。7日目には相手の「腰砕け」で白星。「勝ちを拾って、きょうも運が味方してくれた」。

1月の初場所で負け越して十両へ転落。平成25年初場所から11年間かけて積み重ねた幕内連続出場が大台を目前に990回でストップし、直後は虚無感に襲われた。「でも、それで楽になった。伸び伸び取れるようになって相撲が楽しい。こんなのは小学生以来かな」と吹っ切れた。

所属する伊勢ケ浜部屋では今でも「叱られ役」だ。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「何を考えてんだ」「何の稽古をやってるんだ」と部屋の最年長力士にも遠慮はない。それも宝富士の打たれ強い性格があればこそ。言い訳せず、きちんと返事をし、黙々と取り組む姿勢をみせることで、部屋の空気が一層引き締まるのだ。

その様子はかつてのプロ野球・巨人に重なる。長嶋茂雄が東京六大学からプロ入りした当時、川上哲治監督はスーパースターをよく人前で叱りつけた。ミーティングの席で説教もした。逆に頑固で繊細な王貞治にはその叱り方をしなかった。

1月の初場所を横綱照ノ富士、3月の春場所は尊富士と伊勢ケ浜勢が制した。同じ部屋の個別力士による3連覇が実現すれば、平成7年九州場所の大関若乃花、8年初場所の大関貴ノ浪、同年春場所の横綱貴乃花(番付は当時)と続いた二子山部屋以来。部屋の〝宝〟がドラマをつくる。(奥村展也)