「悪くないんだけどね…」J1町田ゼルビアなぜ失速? ロングスロー、水かけ論争だけじゃない今注目すべき黒田マネジメントの真価

AI要約

黒田監督が悔しさを滲ませながら、町田ゼルビアの失速について語る。

町田の勢いが失われた理由やプレッシャーの影響について解説。

町田の戦術やチームの特徴について詳細に描かれる。

「悪くないんだけどね…」J1町田ゼルビアなぜ失速? ロングスロー、水かけ論争だけじゃない今注目すべき黒田マネジメントの真価

「悪くないんだけどね。内容も狙った通りなんだけど、なんせ点が取れない……」

 第29節、浦和レッズとの国立決戦で2-2の引き分けに終わった2日後。練習場の三輪緑山ベースの一室。数人の記者に囲まれながらいつも和やかな雰囲気で行われる定例の監督取材で、黒田剛監督が悔しさを滲ませながらやや俯き加減でそう漏らした。

 今、FC町田ゼルビアがもがいている――。

 昨季、黒田監督はプロ初挑戦で町田をJ2初優勝・J1初昇格へ導き、常勝・青森山田高校を築いた手腕をプロの舞台でも遺憾なく発揮した。そして今季、積極補強でチームをJ1仕様にアップデート。開幕から破竹の勢いで勝ち点を積み重ね、第14節から首位を直走ってきた。同じ昇格組である東京ヴェルディのキャプテン、森田晃樹に今季の町田の進化を聞くとこう答えた。

「ブレないやり方、そこを徹底してくることは去年と変わらない。でもよりインテンシティが高く、個人の能力も上がっていると思う」

 単純な戦力補強だけでなく、チームとしての質も間違いなく上がっていた。

 しかし、J1でも名将ぶりを示す黒田監督だったが、第24節・横浜F・マリノス戦に敗れると、それ以降は1勝3分2敗と失速。その間、サンフレッチェ広島がクラブレコードの7連勝で猛追。第29節で最大12ポイント差あった勝ち点で並ばれ、得失点差によって町田はついに首位を明け渡した。

 町田はなぜ勢いを失ったのか。町田は「5位以内」という高い目標を掲げ、シーズンをスタートした。優勝はあくまでも“あわよくば”で、現実的ではなかった。それが5月から8月の終わりまで首位を守り、J1初挑戦の新参者には身の丈に合わない優勝の2文字が、否が応でも監督や選手の頭にチラついた。

「意識しないでと言われてもまったく気にしないのは難しいですよ」と、語るのはキャプテンの昌子源だ。

「それは監督もそうやと思う。僕らが気にしなくても周りには絶対に“優勝”とか“首位”という言葉がついてくるので」

 メディアは“J1初挑戦で初優勝”というJリーグ初の快挙の可能性を騒ぎ立て、プレッシャーは容赦なく町田に重くのしかかった。それが“町田らしさ”を鈍らせた要因の一つであることは間違いなかった。

 そもそも“町田らしさ”とはなにか。「失点をゼロに抑え、一本中の一本を決める」が町田のコンセプトである。「1-0が町田の勝利の方程式」と黒田監督は口にしてきた。それを可能にしてきたのが、攻守にわたるチームの設計と実行力だ。

 守備ではまず敵陣深くで2トップのチェイシングをスイッチに、チーム全体のハイプレスで襲いかかりボールを奪いに行く。

 中央にボールを運ばれたら素早く後退し、コンパクトな守備ブロックを形成。自陣深くでは中央を締めて、クロスを簡単に上げさせない。ペナルティエリアでは必ず人を捕まえ、数的優位を作らせず、確実に跳ね返す。やることはシンプルでもディテールへのこだわりはとにかく厳しく、まずは失点ゼロで抑える守備が町田のベースである。

 そのハイプレスから攻撃ではショートカウンターが定石。そして、最も脅威なのが長身FWオ・セフンだ。194cmの分厚い体躯を生かした空中戦は圧倒的で、対策しようがない。今季の町田を象徴する存在である。そのオ・セフンで前線に起点を作り、セカンドボールの回収からサイドや裏のスペースを突く。