MotoGPのエンジン開発凍結、得をするのはだれ? ヤマハやドゥカティ、各メーカーの立場は

AI要約

MotoGPは2027年から新レギュレーションを導入する予定だが、現行世代終盤となる2025~2026年シーズンのエンジン開発を凍結させようとする動きが進んでいる。この規制は、次世代レギュレーションに向けて予算やリソースを割くための試みであり、ヤマハやドゥカティなど各メーカーに異なる影響をもたらす可能性がある。

ヤマハにとっては、エンジン開発凍結によって恩恵を受けるメーカーの1つであり、現在V型4気筒エンジンの開発に取り組んでいる。一方で、ホンダやKTM、アプリリアなどもそれぞれ状況が異なり、凍結措置が与える影響はバラエティに富んでいる。

最後に、現在最強とされるドゥカティは、エンジン開発凍結によってライバルの進化を制限できる利点を持つ。異なるメーカーごとに開発凍結がもたらす影響や立場が異なる中、各社はそれぞれの戦略を見極めていく必要がある。

MotoGPのエンジン開発凍結、得をするのはだれ? ヤマハやドゥカティ、各メーカーの立場は

 MotoGPは2027年から新レギュレーションを導入する予定だが、現行世代終盤となる2025~2026年シーズンのエンジン開発を凍結させようとする動きが進んでいる。間もなく案は承認される予定だが、この規制で得をするのは誰なのだろうか?

 このエンジン開発の凍結に関しては、第14戦エミリア・ロマーニャGPの際に会合が開かれ、そこで承認されると見られている。今回の開発凍結の目的は、理論上はエンジンの850cc化など大きな変化が待ち受ける2027年の新レギュレーションの導入を前に、参戦コストを抑制することにある。凍結によって次世代レギュレーションに向けて予算やリソースを割けるようになることが期待されているのだ。ただこの規制案は矛盾も孕んでいて、一部メーカーに有利に働くと指摘する声もある。

 今回はどの参戦メーカーにとって開発凍結が“得”になるのかを考えてみよう。

■ヤマハ

 結論から言ってしまえば、このエンジン開発凍結によって最も恩恵を受けそうなのがヤマハだ。

 エンジン開発を凍結するとはいっても、優遇措置を受けているホンダとヤマハは優勝や表彰台といった現状では難しいと思われる結果を出さない限りエンジンは開発できる。

 そしてmotorsport.comでも報じたように、ヤマハは現在エンジンをV型4気筒に変更することを目指して開発を進めている。元F1エンジニアも巻き込んで開発が進んでいるこの新型のV4エンジンは、現世代の1000ccエンジンのままである2025年から導入することを目指していて、その後2026年も開発を続け、そして850cc化する2027年へ向けV4形式の知見を積むことができるとされる。

 Autosport/motorsport.comの調べでは、こうしたヤマハの戦略には無駄が多く、規則の精神に沿っていないという批判がMSMA(モーターサイクルスポーツ製造者協会)内部であったことが分かっている。MotoGPパドックでも定評のあるエンジニアは、匿名で次のように語った。

「こういったプロジェクトには何千万ユーロもの投資が必要なんだ。直列4気筒をV4へ変更するというのは、実質的にはバイク全体を変更するということだからね」

 彼の発言はコスト抑制を目的としたこの規制案の必要性を主張しながらも、同時に多額の資金を費やすことのできる自由を与えてしまっては意味がないと考える人達の意見を裏付けるものだろう。

 またMSMA内部では、ヤマハの姿勢が強硬になっていることについての驚きも広がっている。この変化はヤマハがドゥカティでジジ・ダッリーニャ(ゼネラルマネージャー)の右腕として働いていたマックス・バルトリーニを引き抜いてからのものだ。

■ホンダ

 ホンダにとってのアドバンテージは、ヤマハに比べると小さくなるはずだ。

 ホンダもエンジン開発には資金を投じているものの、目指すべき方向性が明確ではない。先日行なわれたミサノ公式テストでも、新エンジンは期待されたほどではなかった様子だ。

 ただホンダも優遇措置を受ける立場であるため、凍結中でも開発は進められる。つまり、不利になるものではない。

■KTM

 エンジン開発凍結を歓迎するのはKTMだ。というのも、KTMは近年売上の減少によって財政面が厳しくなっているからだ。

 MotoGPプロジェクトに対して間接的であれ支出の制限につながるこの規制案は、ステファン・ピエラ率いるKTMにとっては願ってもないこと。なおKTMファクトリーの投資や支出がかさんでいたことは、次に記すスタッフの発言からも読み取れる。

「投資のレベルが論理的ではなかった。ひとつも修正はされなかった。シャシーを作らなくてはいけない場合、ひとつ作るのではなく、テスターが使う前ですら複数のシャシーを作っていた」

「彼らがそれで1回走行しただけで破棄することもあった。つまり、全て捨てているようなものだったんだ」

■アプリリア

 アプリリアにとってはどちらでも無いといったところだろう。親会社のピアッジオ・グループによってMotoGPプロジェクトへと割り当てるリソースやバランス、そこから得られるパフォーマンスやリターンなどから考えられる難しいバランスを、既に見つけ出しているからだ。

 ただアプリリアのMotoGPチーム内部では、外部からの制約や決定を受けること無く、自由に資本の投下場所などを決定したいと考えていることも理解されている。

■ドゥカティ

 そして最後は、現在最強のメーカーとなっているドゥカティだ。彼らはエンジン開発が凍結されることで、利益を得られる立場にある。今季これまでの13戦のうち12戦で勝利しているドゥカティに追いつこうとしているライバルの進化を制限することになるからだ。

 あと2年間現行のレギュレーションが継続され、そしてエンジンの開発が凍結されれば、ドゥカティの権勢は維持されることになりそうだ。