元日本代表太田宏介が子どもたちを笑顔にする社会貢献活動 参加費無料「ジョガスポ」って何だ?

AI要約

サッカー元日本代表太田宏介さんが新たな挑戦としてジョガスポーツカレッジを主宰し、子どもたちにスポーツの楽しさを提供している。

無料で参加できるイベントを通じて、恵まれない環境で育った子供たちに感謝の気持ちを伝え、彼らの未来を明るくするきっかけを与える活動を展開。

太田さんは複数の活動を通じて、子供たちや地域社会に貢献し、今後もさまざまなイベントを計画している。

 「ジョガ」というポルトガル語がある。その意味は「プレーする」。自らの人生を振り返った時に、この言葉が浮かんだ。

 サッカー元日本代表の太田宏介さん(37)は、FC町田ゼルビアに在籍した昨年でプロサッカー選手としての現役生活に終止符を打ち、セカンドキャリアとして新たな挑戦を続けている。

 ■母子家庭に育ち同じ境遇を思い

 「ジョガスポーツカレッジ」。通称「ジョガスポ」を主宰。スポーツの体験型イベントを子どもたちに提供している。常設の湘南校を持ち、全国各地で月1~2回の出張イベントを実施。そこで目を引くのは「参加費無料」だ。太田さんはその意図についてこう説明した。

 「僕は子どもの頃、経済的に恵まれない環境で育ちました。その地域のスクールとかは参加費がかかっていけなかった。同じ境遇の子どもたちは、こういったイベントにも行きたいけど参加費がネックになる。僕がサッカー界にお世話になって、ここまでやめずに続けてこれたので、その恩返しの思いでやり始めました」

 常設校も含め、参加費はすべて無料。かかる経費については地元企業や個人に協賛金を募り、賄っている。

 中学時代に両親が離婚し、母子家庭となった。さまざまな苦労を乗り越えた。自らはプロサッカー選手(横浜FC-清水-FC東京-オランダ・フィテッセ-FC東京-名古屋-オーストラリア・パース-町田)となり、兄の大哉さんは実業家として成功。その兄の会社(化粧品事業などを手がける株式会社ダイヤコーポレーション)にスポーツ事業部門を新設し、太田さんが中心となってスポーツを通じた社会貢献活動を展開している。

 ■寒川イベントはお祭りの雰囲気

 8月18日、神奈川・寒川町でジョガスポが行われた。整備された芝生サッカー場を持つ川とのふれあい公園が会場。縁日の出店やキッチンカーが並び、ちょとしたお祭りの雰囲気だった。その隣のサッカー場で約250人の小学生に向けたサッカー教室が実施された。出店は午後3時からオープンサッカー教室は、真夏の日差しが弱まる午後4時からの開始となった。

 太田さんと組むのは十数年来の親友という、ビーチサッカー元日本代表の原口翔太郎さん(37)。3度のFIFAワールドカップに出場し、21年には準優勝にも輝いているビーチ界の名選手。ジョガスポ創設から関わり、ちょうど今回が1周年のイベントだった。

 また、この活動に賛同する芸人や女子選手ら多彩なゲストたちが参加。子どもたちからは大歓声が飛び、自然と笑顔があふれる場となった。その2時間ほどのサッカー教室は「教える」ものでなく、みんなで体験しながら「楽しむ」というもの。教室でなく「フェスティバル」だった。6面のコートに分かれてミニゲームを楽しみ、合間には大縄跳びなどのレクリエーションも行われた。

 寒川町の少年サッカーチームの全面的なサポートもあり、イベントは無事に終了。その夕暮れ時、子どもたちの満足そうな笑顔があちこちで輝いた。夏の日の思い出として、いつまでも心に残りそうな光景だった。

 太田さんは「(慌ただしくて)バタバタで大変でしたけど、去年よりアップデートできた。準備してきたものを出して、子どもたちのいい一日になったと思います。準備が大変ですけど、でも終わった後、子どもたちのたくさんの笑顔を見られると、それまでの苦労が吹き飛びます」。

 相棒の原口さんも「去年の8月の第1回の始まりがここで、1年ぶりに寒川に帰ってくることができました。子どもの笑顔だったり、保護者の方にもすてきな時間を提供できたのはうれしく思いますし、継続的にやっていきたい」と満足そうに話した。

 ■子どもたちの目標や夢のきっかけに

 この日の寒川イベントはサッカーだったが、サッカーにこだわらず、運動会をしたり、野球、バスケットボール、大縄跳びといったさまざまなスポーツを参加者と一緒に体験し、体を動かす楽しさを伝える。子どもだけでなく親子参加型や、大人向けのものまで実施。創設からこの1年間で、南は沖縄から全国各地で15回以上の「ジョガスポ」を行ってきた。

 太田さんは自身の経験を踏まえ、こういったイベントを通して子どもたちに“きっかけ”を与えたいと考えている。

 「昔、地元に町田サッカーフェスティバルというのがあって、そこでサッカー選手になりたいという夢を持ちました。きっかけというのをもっと大きくできたらいいなと思います」

 それはプロ選手を育てたいという狭義なものではなく、家族愛や個々の人生が明るいものになることを願ってのものだ。

 「楽しむことと、こういう場に連れてきてもらっている親やコーチに感謝の気持ちを忘れずに持とうね、と。ここでうまくなってくれという思いはまったくないです。初心者の子も多いですし、やったことのない子もいます。将来の夢や目標の何かきっかけになればいいな、と思います」

 そう話すまなざしは優しい。

 ■町田アンバサダーなど幅広く活躍

 太田さんは現在、町田のアンバサダーとして地域活動を行うほか、吉本興業所属でのタレント業、また解説業など多方面で活躍している。

 「来月からは現役アスリート、体育会系アスリートを対象としたキャリア支援事業も始めます。ジョガスポも含めて全世代で、支援というか、できたらいいなと思って忙しくやっています」

 ひょっとしたら選手時代よりも多忙かもしれない。明るい人柄で、何でも受け入れられるオープンマインドがそのセカンドキャリアを大きなものにしている。

 「これまで1つ1つの出会いを大切にしましたし、いろんな仲間が集まっていろんなアイデアが浮かんで。好きなことをやっています。まだ始めたばっかりですし、もっと長くやってから評価されるものだと思いますし。今はとにかく足を動かして、頑張りたいなと思います」

 そして「ジョガ」と名付けた意味をたずねると、こう回答した。

 「言葉の意味自体はプレーしろ、楽しめです。僕が横浜FCに所属した時、ブラジル人監督は常に『ジョガ、ジョガ、ジョガ』って言ってました。それがすごく心に残っていて、楽しんでプレーすること。何でもそうですけど、自分でアクション起こしてやること。すごくいい言葉だなと思って付けました」

 企画から準備、協賛企業集めなどすべてを自ら行っている。その苦労も見せずに「めっちゃ楽しいです」。行政機関からの問い合わせも増えた。来月には相模原でのイベントを準備中。ピッチを走り続けた男は今、スタジアムを飛び出し、日本全国という大きなフィールドを駆け巡っている。

 「ジョガ! ジョガ! ジョガ!」

 その言葉が自らの背中を押し続ける。子どもたちの笑顔のため、その未来のために。【佐藤隆志】