町田ゼルビアを超える「スローを武器にしてくれ」緊急提言(3)町田「賞賛に値」複数のスペシャリスト確保と横浜FM戦「使い分け」からの豪快ヘッド弾

AI要約

FC町田ゼルビアの左右にロングスローのスペシャリストを配置する戦術について。

試合中に起こった左サイドからのロングスローから得点が生まれるまでの展開。

新人選手の活躍やチーム戦略を結集した大きな勝利について。

町田ゼルビアを超える「スローを武器にしてくれ」緊急提言(3)町田「賞賛に値」複数のスペシャリスト確保と横浜FM戦「使い分け」からの豪快ヘッド弾

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、J1で旋風を巻き起こしているFC町田ゼルビアの「伝家の宝刀」について。重要なのは、細かなことをおろそかにしないこと。

 驚いたのは、FC町田ゼルビアが左右両サイドに「ロングスローのスペシャリスト」をそろえていたことだ。今季の町田のサイドバックの基本は、右に鈴木準弥、左に林幸多郎。このコンビが、これまでの26試合のうち17試合で先発している。そして左は林が25試合で先発する一方、右の鈴木は先発17試合で、そのほかに192センチの長身、飛び抜けたスピードをも持つ望月ヘンリー海輝が9試合で先発している。

 ロングスローを使うチームは少なくないが、「スペシャリスト」はたいてい1人きりで、仮にその選手が左サイドバックだったとすると、右のタッチラインでのスローインの場合には、わざわざ70メートル近くを走っていってスローインを行うのだ。ところが町田の場合は、鈴木、林と、左右にスペシャリストがいるのである。

 J1「中断前」の7月20日に国立競技場で行われた横浜F・マリノスとのホームゲームでは、望月と林が先発した。横浜FMはハリー・キューウェル監督が解任され、ジョン・ハッチンソン監督が指揮を執った初戦。その状況に選手たちが発奮し、町田は前半を終えて0-2と劣勢に立たされた。

 町田は前半開始早々にあった右のスローインを左サイドバックの林が投げていたが、黒田監督はハーフタイムにこの林を引っ込める。湘南ベルマーレから期限付き移籍で加入したばかりの杉岡大暉を投入し、挽回を図ったのだ。杉岡はその期待に応え、左サイドの突破や威力のあるクロスでチャンスをつくった。

 しかし、杉岡はロングスローの「スペシャリスト」ではなかった。この後半には、望月が左サイドのボールも投げた。右サイドのスローも林がやってきて投げていたので、望月は不得意なのかと思っていが、どうして、彼のスローインもペナルティーエリア中央まで飛び、威力は十分だった。

 だが横浜FMも懸命の守備でゴールを守る。町田に思いがけない得点が生まれたのは後半40分のことだった。

 左サイドで杉岡が左ウイングの芦部晃生を走らせようとタッチライン沿いに長いパスを出したのを、横浜FMの右サイドバック松原健がかろうじて頭に当て、タッチラインに出す。ほぼペナルティーエリアのラインの延長線上。絶好の「ロングスロー機会」である。

 関西学院大から今季加入した新人で、この日がJリーグ初のベンチ入り、後半33分に交代出場でデビューしたばかりのドリブラー芦部がボールを拾って投げようとするが、右から望月が走ってくるのを見るとボールを置き、中央に入っていく。

 左タッチラインまで来ると、望月はビニール袋から紺色のタオルを取りだそうとする。そこにテクニカルエリアを少し出た黒田剛監督が何か声をかける。すると望月はタオルを投げ捨て、素早くボールを拾うと、腰を曲げて体を低くし、内側に立っていた下田北斗にスロー。ワンコントロールした下田は、得意の左足で一歩押し出しながらゴール前を見てライナーのボールを送る。

 ゴール前の最前線には、ニア側に柴戸海、その右にミッチェル・デュークが近い距離で並んでいた。下田のキックの瞬間に柴戸が縦に走ると、そこにできたスペースにデュークが吸い込まれるように走り込んでヘッド、横浜FMのゴールを破った。デュークのヘディングは、技術としてもパワーとしても第一級のもの。さすがにオーストラリア代表である。