「蝶野、忘れ物だ」渕正信が明かす“名スピーチ”の裏側 スーツの下に試合用タイツはいていた!

AI要約

全日本プロレスの伝説的なレスラー、渕正信が新日本プロレスのG1大会に登場し、長州力や蝶野正洋との舌戦を繰り広げたエピソード。

渕のアドリブなマイクパフォーマンスがファンを沸かせ、新日本プロレスとの関係をドラマティックに演出。

渕が不屈の闘志で全日本プロレスのプライドをかけて、新日本プロレスの選手たちに立ち向かった記念すべき一戦。

「蝶野、忘れ物だ」渕正信が明かす“名スピーチ”の裏側 スーツの下に試合用タイツはいていた!

【プロレス蔵出し写真館】デビュー50年の渕正信が7月20日、全日本プロレス「和田京平デビュー50周年記念試合」で斉藤ジュン&レイとタッグを組み、諏訪魔&大森隆男&田村男児組と対戦した。渕は斉藤ブラザーズの要請を受けてドロップキックやバックドロップを披露、まだまだ元気なところを見せつけた。

 さて、渕といえば伝説のマイクパフォーマンスがいまだに語り草だ。

 今から24年前の今日、2000年(平成12年)8月11日、G1真っただ中の新日本プロレス、両国国技館大会に登場した渕は、8500人の大観衆を前に、臆することなくマイクアピールを行った。

「30年! この長い間、全日本プロレスと新日本プロレスの間には、常に大きな壁がありました。その壁を今日、ぶち破りに来ました。私は宣言通りひとりで来て、たった2人しかいない全日本プロレスですが、看板の大きさとプライドは、新日本には負けておりません。この意気込みを新日本プロレスのフロント及びレスラーの諸君はどう対処するか、現場責任者の長州力選手、返答を願いたい」

 渕の堂々としたスピーチにブーイングはない。館内は長州コールの大合唱だ。

【渕の話】早めに(会場に)来て、〝ゴマシオ〟永島(勝司取締役)さんと打ち合わせをするはずだった。木原(文人リングアナ)の車で向かったんだけど、(渋滞で)混んじゃって…。もうギリギリで(両国に)着いた。だから打ち合わせも何もできなくて…。

 着いたら永島さんが待ってて。「永島さん、悪いけどトイレだけ行かしてくれ」と。トイレに入ったら、追いかけて来た永島さんから「とにかく長州を呼び出してくれ」。そして「蝶野(正洋)が今日、試合ないからお前に突っかかってくるから。もう後は任せるから」って。

 トイレ行ってる最中に田中(秀和)リングアナウンサーが「渕選手が今来られているようなので、リングに上がってもらって何か言いたいことあったら言ってください」っていう声が聞こえてるわけだよ。

 リングに上がるとき、緊張感のないような顔してたでしょ? トイレから出てそのままリングに上がる感じだから、緊張もなにもしなかったのよ(笑い)。だから、(セリフは)すべてアドリブ。(後で)わかったけど、だって30年じゃなかったんだよね。本当は28年(※全日本の旗揚げは1972年)。

 渕のマイクを受け、迫力満点の長州がリングに上がった。

 渕の「長州選手…」という言葉を遮るように長州が握手を求め、渕は右手に持っていたマイクを左手に持ち替えると、それに応えて右手で握り返し、ガッチリ握手をかわした。

【渕の話】何を言おうとしたのかな…。なんか言おうとしたら向こうが手を握ってきて「やるなら最後までやるぞ」とか、そういう言い方したから、こっちも「わかった」みたいな感じで手を握り返した。そしたら蝶野が入ってきて…。

 蝶野はマイクを握り、渕に向かい「テメー何様だと思ってんだエー!? ここはG1だオイ! テメーが入る隙間はねぇんだ! とっとと出てけ!」。そして長州にも難クセをつけ、一触即発。渕もネクタイを緩める。

 蝶野はかぶっていた帽子を渕に投げつけると、渕はその帽子をかぶって長州と蝶野のやりとりを見つめた。

【渕の話】新日本の選手は乱闘みたいなのが好きだから、もしかするとパッとみんなに、やられちゃうかもしれないってこともあったから。(上下スーツの)下に(試合用)タイツはいてね。(選手が)バンバン来てね、ズボンとかね、脱がされたらみっともないじゃん、下がパンツだと(笑い)。スーツなんか、もう本当に安いスーツ。そうは(乱闘に)ならなかったけどね。

 蝶野は放送席に行き、がなり立てきびすを返して控室に帰ろうとした。そして、渕の名ゼリフが飛び出した。

「蝶野、忘れ物だ」。蝶野に向かって帽子を投げ返したのだ(写真)。

 渕は再びマイクを握ると「もう止まることはできない! 全日本プロレスは逃げも隠れもしない。これが全日本プロレスの心意気だ。蝶野、来るなら来い!」。場内が大歓声に包まれる中「新日本プロレスのファンの皆様、お騒がせしました」と締め、にこやかな表情でリングを降りた。

【渕の話】(忘れ物?)アドリブだよ(爆笑)。でも蝶野とね、9月2日、全日本でやるように持っていこうとしたからさ、あれであおり的なものもできたし、ひとまず何とかうまくいって、ホッとしたって感じだったね。

 日本のプロレス史に残るマイクパフォーマンスはすべて渕のアドリブだった。

【渕の話】(今後?)年も70だしな。でも、年の割にはよくやってると思われたいから、無理してドロップキックやったりしてるんだよ。もう昔の面影ないけどね。高く跳べないしさ…。同情っていうか、敬老精神っていうか、全日本プロレスのお客さんは温かいよね(敬称略)。