「自信を失った選手を使うことはできません」…なぜトム・ホーバスHCは富永啓生を“使えなかった”のか? その「最大の理由」と「チームの課題」

AI要約

日本代表バスケチームの若手選手、富永啓生がパリ五輪で期待に応えられず苦しんだ理由について分析。

富永啓生の自信喪失とメンタル面の影響、指揮官の采配の影響が挙げられる。

富永啓生のシュート成功率の低下やプレーの精度、チームメイトとの連携なども課題として浮かび上がっている。

「自信を失った選手を使うことはできません」…なぜトム・ホーバスHCは富永啓生を“使えなかった”のか? その「最大の理由」と「チームの課題」

 パリ五輪で日本のファンを熱くさせたバスケ日本代表。結果こそ3連敗に終わったが、強豪国と互角に戦い抜いた試合内容は、日本バスケが新たな時代に突入したことを示唆するものだった。一方で、その舞台で「日本最高のシューター」として期待された23歳の若者は、本来の輝きを放てなかった。その裏には、一体なにがあったのだろうか? 《全2回の2回目/1回目を読む》

 前編では富永啓生が起用されなかった理由として、「各ポジションの役割の変化」と「守備のマッチアップ問題」を挙げた。

 ただ、最大の理由は以下のところにあると筆者は考えている。

 3つ目の理由は、自信の欠如だ。

 国際大会を戦う選手のメンタル面をトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)は特に重視している。それは、大会前に出した著書『スーパーチームをつくる! 』(日経BP)のなかでもたびたび言及している。昨年のW杯で西田優大のプレーイングタイムが短かった理由としても、メンタル面を挙げている。

「ワールドカップが始まった頃に、西田選手はボールを運んで組み立てることに不安を感じてしまった。そこで、自信をなくしてしまった彼に、本番では短時間しかプレー機会を与えることが出来ませんでした」

 あるいは、別のところではこんな厳しい表現も使っている。

「世界大会では練習をはるかに上回るプレッシャーがかかります。自信を失った選手を使うことはできません」

 一番の理由は「富永は自信を失ってしまった」とホーバスHCが判断したからではないだろうか。そしてそれは、大会前の富永のプレーを見た多くの人が感じていたことでもある。

 大会前の富永の1試合平均での3Pシュートの本数と成功率の変遷を見てほしい。6月下旬のオーストラリアとの2連戦の平均、7月頭の韓国との2連戦の平均、本大会直前の欧州遠征でのドイツとセルビアとの2試合の平均の推移は以下の通りだ。

・対オーストラリア:6.5本中3.5本成功(53.8%)

・対韓国:2.5本中0.5本成功(20%)

・欧州遠征:5.5本中0.5本成功(9%)

 一方で、昨年のW杯での1試合平均は6.4本中2.4本成功(37.5%)だった。

 また、五輪の試合を見返してみると、短い時間ではあったが富永がフリーになるような動きをチームメイトがしていた場面も多々あった。そこで富永がフリーになるだけのパワーと、何が何でもボールをもらいに行くだけの心理状況になかったこともうかがえる。

 ただ、富永だけに原因があるわけではないはずだ。4つ目の理由は、ホーバスHCの采配が関係している。

 32カ国が参加できるW杯とは比較にならないほどレベルが上がるのが、12カ国しか出場できない五輪の舞台だ。そのレベルにあるからこそ、今回は指揮官の課題も見えてきた。