お金でも名誉でもなく…松山英樹(32歳)はなぜ“五輪出場”に葛藤していた?「出るからには頑張る」目つきが変わった男子ゴルフ初の銅メダル

AI要約

松山英樹がオリンピックで金メダルを獲得するまでの道のりについて語られている。オリンピックに対する意気込みやプレッシャー、アスリートたちの姿勢に焦点が当てられている。

オリンピックへの参加が松山にとって重圧だったことや、他の競技と異なるプレッシャー、金銭的動機に影響されない彼の真摯な姿勢が描かれている。

松山が金メダルを獲得するまでの戦い、オリンピックを通じて感じた経験、他の世界トップ選手たちとの交流について言及されている。

お金でも名誉でもなく…松山英樹(32歳)はなぜ“五輪出場”に葛藤していた?「出るからには頑張る」目つきが変わった男子ゴルフ初の銅メダル

 仮に意気込みが普段より劣っていたとしても、舞台に立つなり目つきが変わる。トップアスリートといった類の人種はきっとそうなのだろう。

 松山英樹のゴルフ人生の中で、オリンピックは長いあいだ、あらゆるタイトルやゲームの後塵を拝すポジションに屈していた。2016年のリオデジャネイロ大会で112年ぶりに正式競技に復帰することが決まったのは2009年の秋。当時はすでに高校3年生で、彼の幼心を打ってきたのはメジャーや、現在の職場であるPGAツアーで活躍するスターの姿だった。

 20歳そこそこで日本男子ゴルフの希望と目され、世界のトップランカーという立場になってからも、その姿勢は一貫していた。どのシーズンにおいても、オリンピックは一番の関心ごととは言えないように見えた。

 今思えば、オリンピックは彼にとって重圧以外の何物でもなかったのかもしれない。日本国民の世界屈指のメダル熱の高さを知っている。称賛を浴びるアスリートに、尊敬と羨望の眼差しを向けながら、自分事と捉えると不安で仕方がない。

 プロゴルフは毎週、1大会で最大150人以上の選手が1つのタイトルを争う。オリンピックはフィールドの60人が3つのメダルを目指す。“目標達成”の確率が高いのは後者に違いない。しかし、だからこそ、その期待の高さはそのままプレッシャーに成り代わった。

 お金のために出た? とんでもない。金メダルを手にした日本のゴルファーが獲得する報奨金はJOC、各ゴルフ団体が出資する額を合わせて2500万円(銀1200万円、銅700万円)。松山は今季すでに760万ドル(約11億円)以上の賞金を稼いでいる。

「出るからには頑張りたい」。何の変哲もない試合前のフレーズは、負けてはいけない闘いに向かう覚悟そのものだった。

 バカでかい重しを背負ったまま、松山はフランス・パリで勲章を首にかけた。3年前、東京で7人のプレーオフに敗れて逃した銅メダル。4日間72ホールの戦いぶりは、世界屈指のウェッジワークをもとにした優れたディフェンス面以上に、どんなに難しいとされるホールでも立て続けにチャンスを作るアイアンのショット力が際立った。

 一緒に表彰台に上がった世界ランキング1位の米国・スコッティ・シェフラー、英国のトミー・フリートウッドもそれぞれ、母国の期待と責任を同じくらい感じてきた選手たちだったはずだ。フランスを去ればすぐにPGAツアーでまた競い合う3人の互いを労うような表情が印象的だった。