個人技頼みではなく…。日本代表の攻撃的3バックはどうだったのか? 引いた相手を前に手にした収穫とは?【西部の目】

AI要約

日本代表はFIFAワールドカップ26アジア2次予選でミャンマー代表を5-0で破り、攻撃的な3バックシステムをテストした。

中村の活躍や中央突破からの得点など、攻撃の新しい可能性が見えた試合だった。

次戦では遠藤航や南野拓実を軸にした別バージョンが検討される予定。

個人技頼みではなく…。日本代表の攻撃的3バックはどうだったのか? 引いた相手を前に手にした収穫とは?【西部の目】

 日本代表は6日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選 兼 AFCアジアカップサウジアラビア2027予選・グループリーグB組第5節でミャンマー代表と対戦し、5-0で大勝している。この試合で森保一監督は、3-4-2-1を採用。引いた相手に対し、収穫はあったのだろうか。(文:西部謙司)

●攻撃的な3バックをテスト

 すでにFIFAワールドカップ26アジア2次予選突破を決めていた日本代表は攻撃的な3バックシステムをテスト。5-0で難なく勝利した。

 GKに前川黛也。橋岡大樹、谷口彰悟、伊藤洋輝の3バック、右ウイングバックに菅原由勢、左に中村敬斗。中央は守田英正がアンカーに入り、鎌田大地と旗手怜央が流動的に左シャドーと中央を担当。右は堂安律が右ウイングから内側へ入って右のシャドーになる。1トップは小川航基が担当した。

 これまでは守備のために使っていた3バックだが、ボール支配率が高くなると予想された今回の試合では攻撃のためのシステムとして試している。

 ミャンマー代表は5-4-1システムで守備を固め、プレスも緩く、引き込むような守り方だった。そのため日本代表は何の問題もなくボールを敵陣に運ぶことができる。半面、引いている相手に合わせてスローテンポの保持になるため、そこからどうやって崩すかが焦点になった。

●伊東純也と三笘薫が不在…。攻撃のポイントは?

 前半は左側の攻撃が機能していた。鎌田から左サイドの中村へのパス1本で相手を大きく後退させると、中村がカットインから股抜きシュートをニアサイドへ決めて先制。カウンターアタックの形だが、鎌田の広い視野と中村のスピードアップで崩している。

さらに中村がDFの裏をとって抜け出してから鎌田へ渡し、鎌田のシュートはポストに当たったが堂安が押し込んで早々に2-0とした。

 ボールを支配して押し込んでいく展開の中、左の中村はウイングバックというよりウイングとして高い位置に張り出していた。そこへ鎌田、旗手が絡んでいく。一方、右の菅原は最初から高いポジションはとらず、堂安が右の幅とり役から内側へ移動して菅原が出ていく形。縦への推進力がある中村のいる左サイドの方が攻め込みはシンプルでスムーズ。右は手数と時間がかかるぶんスピードアップにつながらなかった感はあった。

 後半から旗手に代えて川村拓夢を投入。川村は明確に守田と組むボランチに入り、鎌田が左シャドーに専念するようになる。堂安と交代した鈴木唯人もサイドに開くのではなく、右シャドーとしてプレーした。

 相手に引かれた場合の攻め手として、従来の日本代表の武器はサイド攻撃だった。右の伊東純也、左の三笘薫という個で破れるウイングのドリブルを使っていた。絶対的な切り札の活用としては正しいのだが、サイドへボールを持っていく過程ですでに攻撃スピードは止められているのでウイングが突破するまでは相手に脅威を与えられない。つまり、伊東と三笘の個人技頼みは否めず、彼らが止められればチャンスを作るのは難しくなる。

 伊東、三笘が不在の今回、中央のコンビネーションでテンポを上げ、相手の守備を後手に回すことができるかどうかはポイントだったと思う。それには連続したパスが必要。それで相手の対応を後手に回せば、相対的に攻撃は速くなるからだ。

●引いた相手に対する収穫とは?

 前半は左の中村による単騎突入という従来型だったが、後半から連続したパスワークでテンポを上げる場面が増えていく。川村の運動量とスピードのあるパスがテンポアップに貢献していた。同時に、前半は守備面で相手のカウンターを刈り取る能力が光っていた守田が、攻撃の起点としても機能しはじめる。

 62分、右ウイングバックの菅原に代わって相馬勇紀。これで右サイドアタックは左同様にウイングバックに一任される形に。さらに左は前田大然がウイングバックに入り、中村が左シャドーに移動。しばらく決定機がなかったが、70分に鈴木のパスがDFに引っかかってこぼれたところを前田が拾ってシュートする(GKがセーブ)。鈴木のパスはDFの「門」を通しかけていて、中央突破の形が出てきていた。

 中央の脅威が増せばサイドも空いてくる。76分、右サイドから相馬が左足でファーポストへ蹴ったクロスを小川がヘディングで決めて3-0とする。

 前半はほとんどパスを貰えず、ほぼ「空気」になっていた小川が突然現れての得点だった。小川は84分にもこぼれ球をゲットして自身2点目、チームの4点目とした。さらにアディショナルタイムの5点目もアシスト。限られた機会に爪痕を残す勝負強さを印象づけた。その点は途中出場でアシストした相馬、2ゴールの中村も同様だった。

 アディショナルタイムの5点目は守田に代わって久々にボランチでプレーした板倉滉から小川へズバッと入れた縦パスから。小川は倒れながら中村へボールを残し、中村がダイレクトで巻くシュートを決めている。ようやく中央突破からの得点をとれたのはチームとしての収穫だろう。

 引いた相手に対して、パスのテンポを上げての中央突破は手数からしても十分とは言えなかったものの、試みとして不発ではなく、今後へつなげることはできた。中村の得点力は相変わらず高く、小川、川村、相馬、前田の活躍も選手層の厚さを改めて見せつけていた。復帰戦となった鎌田も存在感を示した。

 次のシリア代表戦は遠藤航、南野拓実を軸とした別バージョンになるだろうが、やはり何らかのテーマを持ってのテストは行われるのではないか。

(文:西部謙司)