大谷翔平もイチローも「英語ペラペラなのにナゼ通訳が必要?」NY在住の日本人記者が心を痛めた“外国人の失言”「息子の誕生日に無情クビ通告」

AI要約

メジャーリーグの一件で、ロペス選手の言葉が問題になり、チーム関係者やメディアの間で論議が巻き起こった。

ロペス選手のコメントが誤解され、最悪のチーム批判と受け止められたが、実際には自嘲的な発言だった可能性もある。

背景を考慮すれば、ロペス選手に同情する向きもあるが、チーム対応が不適切だったことは事実である。

大谷翔平もイチローも「英語ペラペラなのにナゼ通訳が必要?」NY在住の日本人記者が心を痛めた“外国人の失言”「息子の誕生日に無情クビ通告」

 米スポーツの取材現場では様々な経験ができるものだが、メジャーリーグのクラブハウスがあれほど異様な雰囲気になったのは久々だった。今回は“言葉”が焦点になった一件だけに、アメリカで暮らす1人の外国人として筆者も他人事に感じられなかった。

 ニューヨークでも大きな話題を呼ぶ“事件”が起こったのは5月29日。シティフィールドで行われたニューヨーク・メッツ対ロサンゼルス・ドジャース戦でのことだった。

 このゲームの8回表、大谷翔平に左越え2ランを許したメッツの右腕ホルヘ・ロペスは続くフレディ・フリーマンの打席中、ハーフスイングをボールと判定されたことで激昂。判定に抗議して退場処分を受けたロペスは完全に逆上し、ユニフォームの裾を外に出し、ダグアウトに戻る際にグローブをスタンドに投げ入れた。

 この日の試合にも敗れたメッツは直近の9戦中8敗と低迷中。ただでさえ消沈しがちなチームの空気をさらに悪くする行為に、ゲーム後の記者会見でカルロス・メンドーサ監督は「彼がやったことは受け入れられない」と自軍投手を公に批判した。当のロペスは少し落ち着いて反省しているかと思いきや、結果的にメッツの一員として最後になるメディア対応での言葉は後々まで論議を呼ぶものとなった。

「後悔はしていない。私はMLBで最悪のチームでプレーしている。なるようになる。彼らに好きにさせればいい。彼らが望むのであれば私は明日もここにいるよ」

 乱調&退場直後の興奮からか目を赤く染めたロペスはそう述べたように聞こえ、周囲を取り囲んだメディアはほとんど凍りついた。

 そこであるレポーターに「(メッツは)最悪のチームと言ったのか」と確認されても、ロペスは「たぶんね。そう見えるよ」と傍若無人な態度を取り続けた。こういったコメントを額面通りに受け取るのであれば、完全なチーム批判。この後、ロペスには早々と戦力外通告が成されたが、それも仕方なかったのだろう。

 しかし、実は問題が1つある。英語が母国語ではない31歳のプエルトリコ人はアクセントが強い。筆者もメッツのクラブハウスでロペスを取り囲むメディアの輪の中にいたが、実際に何を言ったのかははっきりしなかったのだ。

「私はMLBで最悪のチームでプレーしている。(I’ve been on the worst team in the whole f―ing MLB) 」ではなく、「(あんな騒ぎを起こした後で)私はたぶん最悪のチームメイトであるように見えるのだろう(I’ve “been looking [like] the worst teammate in probably the whole f―ing MLB)」と自嘲気味に言ったのではないか。

 改めて映像を見直すと、後者の方が近いように聞こえる。ロペスも翌日に発表したSNSのメッセージ内で騒動を謝罪した上で、チーム批判の意図はなかったと記していた。それが事実だとすれば、ロペスの“舌禍事件”の印象はかなり変わってくる。

 もちろんMLBでもベテランの域に差し掛かった投手が適切な行動をしなかったのはいずれにしても事実ではある。どんな理由があろうと、自軍のベンチ前でスタンドにグローブを投入したのは恥ずべき行為。取材対応時にはFワードを連発しており、チーム批判と捉えられたコメントにしても上記通り、記者側から確認、訂正の機会も与えられながら態度は変えなかった。

 さらに付け加えると、一部の米メディアは後にチームに再確認しており、そこでも“worst”という言葉は自身、チームの両方に向けられたものだったとロペスから改めて告げられたのだという。これらの背景を考えれば、メジャー10年目のロペスに同情の余地はないと考えるファンもいるかもしれない。

 ただ……それでも今回、メッツのクラブハウスで起こったことはロペスには少々気の毒にも思えた。興奮状態の中で、しかも母国語ではない言葉でのやり取りから生まれた不躾なコメントであることは考慮されてもいいように思えたのだ。

 事件後も盛んに報道されたが、ロペスはミネソタ・ツインズに所属していた昨季中、メンタルヘルスの問題で負傷者リスト入りした経験がある。また、11歳の息子が“家族性地中海熱”という生まれつきの難病を患っており、息子の誕生日でもあった5月29日は精神的に辛い状態でマウンドに立っていたとも伝えられている。

 それらの背景から冷静に話せる状況でなかったのであれば、そもそも試合後も無理にメディア対応をする必要はなかった。質疑応答が避けられないのだとすれば、通訳か、あるいは英語&スペイン語に堪能なチーム関係者の助けを借りてもよかった。“ロペス自身が通訳なしの対応を望んでいた”というチーム側の言い分は理解できるが、今回に限っては例外として介入してもよかったのではないか。

 少なからずのヘルプがあれば、戦力外通告に至るまでの破局は避けられたのではないかとも思えてくるからだ。