アルビレックス新潟で「出続けるうれしさ」。長倉幹樹は“しれっと”現れて涼しい顔でゴールネットを揺らす【コラム】

AI要約

5月は明治安田J1リーグ1勝1分4敗と苦しみ、16位に沈むアルビレックス新潟は、相次ぐ負傷者の影響で限られた人数での戦いを強いられている。フル稼働を続ける長倉幹樹は、今季リーグ戦で3得点1アシストと結果を残す。苦境にあるチームを勝利へ導くことを目指している。

長倉はタフな5連戦でフル稼働し、チームの負傷者状況にも関わらず積極的にプレーを続けている。得点やアシストを重ねながらコンディションを維持し、チームに貢献している。

アマチュアから一気にJ1へと昇格した長倉は、プロへの強い思いと執念を持ってチームに貢献している。決定力不足に悩む新潟において、長倉はチームを勝利へと導くために奮闘している。

アルビレックス新潟で「出続けるうれしさ」。長倉幹樹は“しれっと”現れて涼しい顔でゴールネットを揺らす【コラム】

5月は明治安田J1リーグ1勝1分4敗と苦しみ、16位に沈むアルビレックス新潟は、相次ぐ負傷者の影響で限られた人数での戦いを強いられている。その中で、フル稼働を続ける長倉幹樹は、今季リーグ戦で3得点1アシストと結果を残す。「できないことがない」と評される24歳は、悩めるチームを勝利へと導くことを目指す。(取材・文:野本桂子)

●タフな5連戦でフル稼働した長倉幹樹

 アルビレックス新潟は、5月11日の明治安田J1リーグ第13節・浦和戦から第16節・福岡戦まで、15日間でカップ戦含む5試合を戦い抜いた。ほかにも同様の日程で戦うチームはあったが、新潟はこの間、負傷者が相次いだ不運もあり、JFA・Jリーグ特別指定選手も招集してベンチをぎりぎり満たせる危機的状況。昨季のように2チーム編成でターンオーバーさせることもままならず、ほぼ同じメンバーで先発を数名入れ替えながらの5連戦となったのだ。

 チームで唯一、このタフな5連戦すべてに先発出場したのが、長倉幹樹だ。

 FWの交代選手がベンチにいないという事情もあったが、長倉自身もそれは覚悟の上。むしろ「長い時間出た方がチャンスも増えるので、やっていて楽しいです。疲労感よりも、出続けているうれしさの方が大きい」と連続スタメンをポジティブに受け止め、ピッチに立ち続けた。

 5連戦の1戦目となる第13節・浦和戦と、3戦目となる第15節・湘南戦で、それぞれ1得点を挙げた。4戦目に当たるYBCルヴァンカップ・秋田戦では、延長後半の120分までピッチに立ち続けた。さらに中2日で迎えた5戦目の第16節・福岡戦では、90+3分に自陣からゴール前まで長い距離を走り、クロスを頭でそらして早川史哉の得点をアシストした。

 この間、リーグ戦の4試合はいずれもフル出場で2得点1アシスト。自身の得点は勝利に結びつかなかったものの、第14節・横浜F・マリノス戦は攻守に走って両チームを通じて最長の走行距離(12.598km)を記録し、ルヴァンカップ秋田戦では延長120分まで出場し、勝利に貢献した。

●「できないことがない選手」熱さを秘めるゴールハンター

 自負する持ち味はオフ・ザ・ボールの動き出しで、16節を終えての総スプリント回数(25km/h以上で1秒以上走った回数)はチーム1位の182回。2位の松田詠太郎(166回)の出場時間は786分であり、同590分の長倉がスプリントを記録する頻度の高さが分かる。

 チームメイトである高木善朗いわく「できないことがない選手」。身体能力が高く、スピードも運動量もあり、技術も高い。常に冷静で、しれっと、するっとゴール前に現れて、涼しい顔でネットを揺らす。

 今季初得点が生まれたJ1第4節・東京V戦は、連動したプレスから相手のミスを逃さず冷静にゴール。第13節・浦和戦では、DFの頭を越えてきたクロスを正確に頭でプッシュ。第15節・湘南戦では、DFと競り合いながらも谷口海斗からのパスを左足にうまく当てて、ニアサイドへ流し込んだ。

 日頃はおとなしく穏やかだが、点を決めた後は力強いガッツポーズで吠える熱い一面も持っている。また、球際でも負けん気の強さを見せる。

 今季のルヴァンカップ2回戦・いわき戦でのこと。開始12分、味方からのロングパスをDFと競り合った際に倒れた。しかしすぐに立ち上がり、相手のものになったボールを猛然と奪い返しにいくと、もつれ合いながらも泥臭く刈り取って、シュートを打ち切った。これは枠外ではあったが、まさに転んでもただでは起きない執念を見せた。その後もこのDF――大森理生との球際バチバチの熱いバトルは、63分に長倉が交代になるまで続き、見応えがあった。昨季は見られなかった熱さが、試合ごとに開放されてきたようにも見える。

●「何年かかってでもプロになる」アルバイト生活からJ1へ

 昨夏、新潟へ加入した長倉は、わずか1年半でアマチュアから国内トップリーグへ一気に駆け上がった選手として、注目を集めた。

 浦和ジュニアユース、浦和ユースを経て順天堂大へ。プロになることを目指し、J2やJ3のクラブに練習参加したが契約には至らず。卒業後の22年、関東1部リーグに所属する東京ユナイテッドFCへ加入した。

 平日はスポーツジムやサッカースクールでアルバイトをしながら、週末はサッカーの試合に臨む日々。「何年かかってでもプロになる」という揺るぎない思いを持ちながらリーグ前期9試合で8得点を挙げると、その年の8月、浦和ユース時代の恩師・大槻毅氏が監督を務めるJ2群馬からオファーが届き、念願のプロ入りを叶えた。

 その年は6試合に出場し2得点。23年は20試合に出場し5得点を挙げると、7月に今度はJ1新潟から完全移籍のオファーが届く。自身をプロにしてくれた群馬には恩義も感じていた。また当時の群馬がJ1昇格プレーオフを狙える順位につけていたこともあり、迷ったが、最終的にはJ1新潟を選んだ。23年は新潟で10試合に出場。最終節・セレッソ大阪戦でついにJ1初ゴールを決め、これが決勝点になった。

●決定力不足に悩むアルビレックス新潟

 今季キャンプの入りから好調だった長倉は、沖縄で行われた最初の練習試合・ガンバ大阪戦で、チームのファーストゴールを決めた。敵陣での連動した守備から、こぼれ球を拾ってのミドルシュート。宇佐美貴史に先制された1分後に追いつく貴重なゴールで流れを引き寄せ、その後は谷口の逆転弾で新潟が2-1で勝利している。

 昨季のリーグ最終節で決め、今季は最初に決めた。報道陣は「いい流れですね」と声をかけたものの、長倉本人は「いま気づけば……。全然、何も考えていなかったです(笑)。幸先よく1点目が取れてよかったです」と、気負いのなさが奏功した1点目だった。しかしそのキャンプ中に臀部を負傷し約1カ月離脱。開幕ダッシュとはいかなかったが努力を続け、今季最も苦しい状況となった5月に、チームの力となった。

 新潟はJ1第16節終了時点で16位。ルヴァンカップはプレーオフステージへ進んだ。6月もカップ戦を含め8試合を戦う過密日程。町田、長崎、鹿島と堅守を誇るチームとの対戦は、新潟がいま取り組んでいる決定力不足を解消する試金石となる。長倉も「自分だけじゃなくて、チームで崩していかないといけないので、連係を大事にして点を取りたい」と意識する。

 先週末までの5連戦で試合勘に磨きがかかり、ゴールに絡み続けていることは、いい兆しだ。それでも得点に関わった試合で勝てなかった悔しさはある。「どの試合もそうですけど、結果を出して、そのうえで勝てたら一番いいと思います」。6月も5連戦から始まる。長倉は引き続き、チームのために足を動かし、体を張りながら、自らのゴールで勝利に導くことを目指す。

(取材・文:野本桂子)