投石器や銃やカタパルト、大陸間弾道ミサイル…兵器と物理学の切っても切れない関係

AI要約

斜方投射は古代から兵器として使用されてきた歴史ある運動であり、ダビデとゴリアテの逸話を通じてその一端を紹介。

投石器や投石機などによる斜方投射は長距離武器として活用され、戦場で重要な役割を果たしてきた。

斜方投射は従来から武器としてだけでなく、狩猟や攻城にも利用され、人類の歴史とともに発展してきた。

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本記事では力学編から、 斜方投射​についてくわしくみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

 高校の物理学の、力学分野の授業で判で押したように、最初のほうに習うのが、斜方投射である。実はこの斜方投射はつねに兵器と共にあった、と言っても過言ではない。

 キリスト教とは無関係な人でも、ダビデとゴリアテの逸話はたぶん一度は聞いたことがあるだろう。このエピソードは、旧約聖書の『サムエル記・上 17章』に登場する。ダビデは古代イスラエルの王で、紀元前1000年頃~紀元前961年に在位したと伝えられる。このエピソードが実話かどうかはわからないが、状況設定にはそれなりに説得力がある。

 ダビデとゴリアテの逸話はだいたいこんな感じだ。

 ダビデ側のイスラエル人とゴリアテ側のペリシテ人は敵対関係にあって一触即発の状況だった。ゴリアテは、イスラエル側に、無駄な血を流さないため、一騎打ちで勝敗を決しようと申し出た。ところがこのゴリアテがとてつもない巨人(旧約聖書の記述では3mほどあったという)だったので、応じる者がなかった。

 そこにまだ年端も行かない少年だったダビデが申し出て、投石器だけでゴリアテをうち倒し、ゴリアテ自身の刀を使って首をはねてとどめをさした(以下では革ひもで作られていて手動で投石する器具を「投石器」、より大型で複雑な機械仕掛けを伴っていて攻城などを目的としたものを「投石機」と書き分けることにする)。

 この投石器、というものは、名前こそ大げさだが、基本、ただの革ひもである。それでループを作り、広い部分に石を入れ、ビュンビュン回転させて勢いをつけたところでパッと片方のひもを放し、石を高速で打ち出す、というだけの代物だ。

 まさに、初速と発射位置を決めたあとの軌跡は斜方投射(斜め方向に初速を与えて、あとは重力の力にまかせて落下させるような運動)にほかならず、「斜方投射兵器」と言ってもバチは当たらないだろう。

 ダビデがゴリアテを倒すのに使ったとされる革ひもを用いた投石器は、弓と並ぶ人類が最初に発明した長距離武器とされ、紀元前1万年くらいの中石器時代にはすでに狩猟目的で実用に供されていたと、考えられている。農耕が発達し、人間が富を蓄え、その奪いあいが始まるようになると、投石器の標的は獣から人間になった。

 ゴリアテとダビデの逸話は、神話のような物語にすぎないが、投石器を装備した軽装の機動部隊が、重装の歩兵部隊を時に戦場で翻弄したのは史実のようだ。

 その後も、人類は斜方投射を武器として活用し続けた。都市文明が発達し、戦闘の重点が、大きな砦や、城に立てこもった敵を追い落とすことに移ると、今度は攻城用の投石機、いわゆるカタパルトが、出現する。石を投げる動力としては、動物の腱の弾力を用いたもの、重りの反動を用いたものなどさまざまだが、投擲後の軌道制御には斜方投射以外頼るものがなかったのは変わりがない。