ズレ(9月1日)

AI要約

江戸時代の暦の改革に挑んだ天文学者の物語。中国由来の宣明暦が日の巡りと2日のずれを生じ、幕府の権威にも関わる問題となった。

幕府初代天文方の渋川春海が修正に挑み、日本独自の暦である貞享暦を作り上げる過程を描く。

暑さが和らぐはずの季節に猛暑が続く現代も、異常気象の影響は収まらず、温暖化の影響で冷静な対応が求められている。

 いつの間にか「ズレ」が生じ、見直しを迫られるようになった。江戸時代の「暦」、いわゆるカレンダーの話だ▼平安時代から約800年間、中国由来の「宣明暦[せんみょうれき]」を使い続けていた。長い年月を経て、実際の日の巡りとは2日の食い違いが起きていた。地球の公転の周期はぴったり365日でないのが原因らしい。日食や月食の読みが外れるのは、幕府の権威にも関わる由々しき事態だったのだろう。さて困った…▼修正に挑んだのが、幕府初代天文方の渋川春海だった。日本で最初の天文学者とされる。会津藩主保科正之公らの後押しを受け、昼は太陽、夜は星空の観測を繰り返した。天のことわりを読み解き、正確な暦を導くまで、困難と失敗の連続を乗り越えた。「宣明暦、天に後[おく]る二日なるを」。わが国独自の「貞享暦[じょうきょうれき]」を作り上げ、幕府に採用された▼処暑を過ぎ、暦の上では暑さが和らぐはずなのに、今年は例年以上に猛暑が続く。嵐への備えは解けない。異常気象は農作物の不作や魚介類の不漁をもたらしているとも。人類の営みが引き起こした温暖化が季節の周期を狂わせたとしたら、一刻も早く正さねば。江戸の偉人が残した孤高の星図を道しるべに。<2024・9・1>