〝大熊ラジオ〟住民つなぐ 東京から移住 沖野さん配信 防災力高めたい 9月11日に町民ゲスト 震災の教訓継承

AI要約

東日本大震災や福島第1原発事故を経験した大熊町で、東京から移住した沖野昇平さんがインターネットラジオを通じて防災情報を発信し、地域の防災力を高めようとする取り組みが話題になっている。

沖野さんはラジオを通じて防災意識を高める取り組みを行い、被災者の貴重な声を届け、未曽有の複合災害の経験を後世の教訓とすることを目指している。

将来的には出張ラジオなどの新たな取り組みも構想しており、「日本一のローカルラジオ」を目指して生の声を届け続けている。

〝大熊ラジオ〟住民つなぐ 東京から移住 沖野さん配信 防災力高めたい 9月11日に町民ゲスト 震災の教訓継承

 大熊町発のインターネットラジオが話題を集めている。配信するのは東京都から町に移住した沖野昇平さん(31)だ。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を経験した町に暮らす中、「災害の悲しい出来事を繰り返したくない」と思い立った。地域の防災力を高めようと毎月11日に住民目線で現地の情報を発信している。震災から13年6カ月となる9月11日には初めて複数の町民を招いて被災経験を話してもらい、教訓や記憶の継承につなげる。

 旧大野小を活用した起業家支援施設「大熊インキュベーションセンター」の放送室に沖野さんの声が響く。「おおくま防災ラジオ」として、これまで8回配信した。センター職員らと「原子力災害とは何か」などに意見を交わしている。

 沖野さんは神奈川県出身で東京大大学院教育学研究科修士課程修了。在学中に教育関連会社「イン・ザ・ライ」を設立し社長を務める。日本と海外の子どもがオンラインで交流する特別授業を各地の学校で展開している。2022(令和4)年に町教委の職員に出会い、義務教育施設「学び舎(や) ゆめの森」でも授業をしてほしいと依頼を受けた。

 実際に町に足を運び、ゆめの森を視察すると、子どもたちは従来の学校とは違う開放的な空間で生き生きと学んでいた。地域一丸で復興に向けたまちづくりに取り組んでいる現状にも触れた。「自分も大熊の力になりたい」と、昨年10月に東京都から移住した。

 新たな生活の中で「原発が立地する町である以上、原子力災害への恐れを常に抱えている」と感じるようになった。居住人口は約1300人と少なく、防災体制は十分と言えない。防災のプロではないが、「知る限りの知識を伝えていこう」と考えた。発信の方法として気軽に話せる「ラジオ」を選んだ。

 昨年12月からデジタル音楽配信サービス「スポティファイ」で活動を始めた。台風や避難所での熱中症対策などのテーマで進行し、誤った情報は絶対に流さないよう心がける。気象庁や自治体のホームページなどから正確な情報を引用し、「災害時の避難のタイミング」や「災害に備える大切さ」などを伝えている。

 反応は上々だ。リスナーの住民らからは「防災を考えるきっかけになった」などの声が寄せられている。より多くの人に防災意識を高めてもらおうと考えを巡らせ、来月11日に町民をゲストに招くことを決めた。被災者の貴重な声を届け、未曽有の複合災害の経験を後世の教訓とする。町民の多くは今も各地に避難しているため、「ラジオを通じて大熊の人たちをつなぐ場にしたい」と明かす。

 将来的には自身が町内各地に出向く「出張ラジオ」の構想も描いている。「防災を考える機会をつくり、住民に災害への備えを万全にしてほしい」と目標を語る。「日本一のローカルラジオ」を目指し、生の声を届け続ける。