偽者(8月4日)

AI要約

武田信玄の死を隠そうとする重臣たちが、一人の盗人を連れて来て主君に成りすますが、側室に簡単に見破られる。黒沢明監督の映画「影武者」で仲代達矢が主人公とその影武者を演じるが、最初は勝新太郎がキャスティングされていた。影武者の哀れな姿を見事に演じた仲代だが、観客からは勝新太郎の主演を希望する声も上がっている。

最近ではSNS上で実業家や経済評論家の成りすましによる詐欺被害が増えている。県警が確認した被害額は昨年の3倍に達し、被害者の怒りや後悔が大きい。福沢諭吉は「学問のすゝめ」で「信の世界は偽詐が多く、疑いの世界は真理が多い」と述べており、おいしい話には慎重になるべきだと警告している。

信玄の影武者が見破られた理由は、古傷がなかったためであり、信を装っても本物でないことがわかる。疑い深く、慎重に行動することが重要であり、詐欺に遭わないように注意する必要がある。

 武田信玄の死を隠そうと、重臣らが一人の盗人を連れて来た。主君に成り済ます。うり二つの男は振る舞いも次第に板に付く。それでも、側室はだませず、あっさり見破られた。黒沢明監督の映画「影武者」で描く▼本人と影武者を仲代達矢さんが一人で演じたが、いわばはこれも身代わり。撮影当初は勝新太郎さんの役だったが、監督と衝突して降板した。急な助っ人となった仲代さんは、哀れな影武者像を見事に演じ上げた。一方で「勝さんの主演で見たかった」との声は今もやまない。「世界のクロサワ」の心中は…▼昨今は交流サイト(SNS)に著名な実業家や経済評論家の成り済ましが次々と現れる。親しみのある笑顔で、うその投資話を信じ込ませる。県警が今年上半期に認知した被害額は、早くも昨年1年間の約3倍に達している。虎の子をだまし取られた人の怒りや後悔を思うと言葉もない▼信玄の影武者だと見破られたのは、あるべき古傷がなかったためだった。かの福沢諭吉は「学問のすゝめ」に記す。〈信の世界に偽詐多く、疑ひの世界に真理多し〉。おいしい話はうのみにせず、まずは疑ってみる。信を装っても、古傷のように偽は浮かび上がる。<2024・8・4>