認知症の「重症リハ」はどのように取り組めばいいのか【正解のリハビリ、最善の介護】

AI要約

認知症は治らない病気であり、症状を和らげることが重要。

重症になるとコミュニケーションが難しくなり、寝たきりや誤嚥などの問題が生じる。

重症リハビリでは寝たきりを防止し、患者の健康的な状態を維持することが重要。

認知症の「重症リハ」はどのように取り組めばいいのか【正解のリハビリ、最善の介護】

【正解のリハビリ、最善の介護】#45

 認知症はサプリやリハビリで治りますといった誇大広告をよく見かけます。認知症は加齢とともに進行しますので、治る病気ではありません。ですから、本人と家族が困る症状をどうやって和らげてあげることができるのかに尽きます。われわれは24時間365日、認知症の患者さんの生活を支援しています。認知症の治療法は、環境調整と関わり方が基本です。それにはリハビリ的視点が欠かせません。それでも難しい場合に、初めて薬剤治療が必要になります。この3つの原則を覚えておいてください。

 さて、認知症が重症になると、認識力や認知機能が著しく低下するため、人を認識したり、言葉を理解することができなくなるなどして、コミュニケーションを取ることが難しくなります。また、運動障害や歩行障害が生じて体を動かすことが難しくなり、寝たきりになるケースも少なくありません。

 そうなると、誤嚥による肺炎などを発症して亡くなるリスクが高まります。さらに病状が悪化すると、食事を食事だと認識できなくなるため、食べられなくなります。食事や水分をとれなくなると、およそ2週間で亡くなる方がほとんどで、この2週間がいわゆる看取り期(終末期)と呼ばれる段階です。

 認知症が重症になると、運動するなどして回復を目指すようなリハビリは行えません。ですから、看取り期には至っていない認知症の「重症リハビリ」では、なるべく寝たきりになることを防止して、できる限り家族とのなにげない活動を継続できるように取り組みます。

 ずっと寝たままにはさせずに体を起こして、安定した姿勢で座ってもらい、可能ならば立たせてその姿勢を気持ちよく維持してもらいます。車イスに移動できるようになれば、家族などと外出することも可能です。そうなれば、家族の介助量も軽減できるようになります。

■介護=ケアと一体になっている

 病状が進んで看取り期に近づいた重症リハでは、清潔を保ったり、痛みを軽減するなど、患者さんが健康的で気持ちよさを感じられるような取り組みを行います。

 かつては、患者さんが食事をとれなくなると、胃ろうを設置して栄養を供給するかどうかを検討する時代もありましたが、近年は口から食べられなくなったら寿命と考えて、無理に延命はしないという傾向が主流になっています。そんなふうに、動けない、食べられない状態になれば、当然、寝たきりで衣服の着替えや入浴もままなりませんし、排泄は垂れ流しになるなど、全身が不衛生になります。それらを清潔に改善し、少しでも健康的に感じてもらうために重症リハを実施するのです。

 褥瘡(床ずれ)を予防するために、寝た状態から起こして除圧した姿勢で座らせてあげたり、体の節々の痛みを軽減するために全身の関節を伸ばしてあげたり、清潔を保つために体を拭いてあげたり、お風呂に入れてあげたり……。意識があるようなら、屋外に連れ出して季節と快適な空気を感じてもらう場合もあります。

 このように認知症の重症リハは、介護=ケアと一体になっているといえます。例として挙げた処置はすべてリハビリでもケアでも実施しますし、お風呂で全身を洗うことも、本人が洗う行為を促すのであればリハビリになりますし、他の人がすべて洗ってあげるとすればケアになります。いずれにせよ、どちらも患者さんが健康的で幸せを感じてもらうために行うのです。

 こうした看取り期も含めた重症ケアは、施設でも自宅でも取り組みが必要になります。ただ、重症になってくると介護の負担が大きくなるので、家族がひとりで続けるのは困難ですし、限界があります。ですから、家族が困り果てたり疲弊してしまう前に、われわれ専門家や施設に相談してください。その患者さんの病気を医学的に知り、なぜその症状や状態が現れているのかを理解し、それをどう看護してどんなリハビリやケアに取り組めばいいのか。これを家族の希望に沿って一緒に考えて実践していくことが最善の介護につながります。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)