看取り医が腰を抜かすほど驚いた…!「ポンコツ夫と同じ日に死にたい」と希望する毒舌妻に訪れた「まさかの事態」と「奇跡の瞬間」

AI要約

佳代子さんの夫、拓三さんの肺気腫や認知症による病状と、佳代子さんの元気な様子が描かれる。

佳代子さんの過去や結婚後の喫茶店経営についてのエピソードが明かされる。

佳代子さんが「すぐに私を逝かせてほしいの」と語るが、同日の夫婦同時死亡という奇跡的な出来事が報道される。

看取り医が腰を抜かすほど驚いた…!「ポンコツ夫と同じ日に死にたい」と希望する毒舌妻に訪れた「まさかの事態」と「奇跡の瞬間」

「どうやったら一緒に寿命を迎えられるか」と聞かれることがあるが、それは不可能である。人が調整できる領域にはない。だが、私の患者の妻、佳代子さん(仮名・82歳)はそれを望んでいた。

佳代子さんの夫、拓三さん(仮名・87歳)は肺気腫で、在宅酸素を3Lで吸入していた。眠る時間が増えてきており、外出も困難になってきていた。認知症も進んでいる。一方で、佳代子さんは元気でピンピンしている。一緒に寿命を迎えられる要素は全くなかった。

6000人以上の患者とその家族に出会い、2700人以上の最期に立ち会った“看取りの医者”が、人生の最期を迎える人たちを取り巻く、令和のリアルをリポートする――。

前編記事「「あのポンコツ、どうしようか」…!認知症が進み、死期が迫りつつある夫に対し、悪態をつく毒舌妻の「もうひとつの素顔」と「意外な本音」」より続きます。

その後も2週間に一度の診察は続いた。拓三さんに大きな体調変化はなく、診察に行くたびに、佳代子さんは珈琲を淹れてくれて、私はそれを飲みながら雑談をしていた。味の良し悪しは分からないが、どこか昭和の懐かしい味がする珈琲だった。

「“お父さん”は公務員だったそうだけど、“お母さん”は主婦だったの?」

「どう思う? 正直にいってごらんよ」

「何か商売をしていたように見えるんですね。どうにも主婦っぽくないというか…」

佳代子さんはニンマリと笑い、「大学病院の近くにカトレアって喫茶店があったのは覚えている?」と聞かれた。

しっかり覚えている。学生時代に何度も行ったことがある。言われてみれば本棚にある漫画は、カトレアに並んでいたラインナップと同じものだった。喫茶店の女将は、客に媚を売らないスタイルで有名だった。あのおばさんだったのか――。

「この人と結婚して、子育てが一段落したとき、私は何かしたくなったの。私って、子供の頃からいろいろあってね。自分の思い通りになんて生きられなかった。それでまずはクリーニング屋の受付をやってみて、次にケーキ屋さんの販売もしてみて、その後どうしようかと考えていた頃に親戚が千葉県の柏市で喫茶店をやって繁盛しているのをみてね、習いにいってみてさ、思い切って喫茶店を始めたのよ」

「ご家族は反対しなかったの?」

「この人は、頑張れっていってくれたけどね。でも何をするにもお金がかかるわけよ。それなのに背中を押してくれた。それが全てじゃないけれど、私は感謝している。息子が亡くなった時も私は立ち直れなくなってね…。その時もこの人は私のことをずっと待っていてくれたから…。今はポンコツになっちゃったけどね。だから、この人を私より先に逝かせてね。それから、すぐに私を逝かせてほしいの」

事務所に戻った夜更けに検索をしてみた。同日に亡くなった夫婦のエピソードは出てきた。

それを伝えた読売新聞によれば、富山県の人気和菓子屋のご夫婦で、同じ日に2時間弱の差で別々の病気で亡くなったとされている。別の出版社の記事では、(どういう計算をしたのかわからないが)〈統計学上、同日同時刻に夫婦が病死する確率は10億分の1以下といわれる〉とあった。いずれにしても、同時刻を外したとしても、確率は極めて低いだろう。少なくとも私がみた6000人の患者にはいなかった。

佳代子さんは「すぐに私を逝かせてほしいの」と言っていたが、身体的にも精神的にも元気な彼女が同日に逝くことは無いだろう。