山に生息する “ガングロ”!「山岳渓流の黒いイワナ」【渓流釣り】

AI要約

秋の気配が漂う中、禁漁期を乗り越えて勝手知ったる渓でフライフィッシング。

涼しく快適な天候の中、慎重に入渓し、山岳渓流での釣りを楽しむ。

朝から魚たちとのやり取りを楽しみ、大物をゲットして退渓する。

山に生息する “ガングロ”!「山岳渓流の黒いイワナ」【渓流釣り】

 8月が終わり、山では秋の気配が漂い出しています。渓流釣りを愛するアングラーにとって、この時期頭を離れないのが“禁漁”の2文字です。新しい場所や遠い川もいいですが、通い慣れた渓の様子も確認しておきたくなります。

 シーズン中何度か訪れる北アルプス北部を流れる山岳渓流、勝手知ったる渓へフライフィッシングに赴きました。

 9月に入り、標高が高い山岳渓流はすっかり秋めいてきました。いよいよ(本州の一般的な自然河川の)渓流シーズンもラストスパートです。

 当日は曇りで、たまに隙間から青空が覗くような空模様。高原を吹き抜ける風は涼しく、入渓点を目指して歩いていても快適そのものです。薮の急斜面を慎重に降りて川辺へ。つい先日までは見かけなかったトリカブトが、ド派手な色、形状の花を咲かせています。

 このところ一帯では、程よく雨が降ったり止んだりを繰り返しているので、水量も十分です。早朝に出発して入渓したのは8時半。水温は11.2℃でした。

 ウェーディングパンツを通して伝わる流れの冷たさが気になります。いつも以上に水に入らないようにしてしまいます。入ってもなるべく浅いところを……。つい最近までは水に浸かるのが快感だったのが嘘のようです。

 とはいっても、それは人間の話。山のイワナにとっては適温だと思うのですが、急に涼しくなったからでしょうか。ドライフライを水面付近に漂わせてもなかなか顔を出してくれません。フライを沈めてみようかとも思いましたが、同行者のルアーにも追ってくる影は見えません。

 朝早くからワクワクしながら急ぎ足でここまで来たので、魚たちの活性が上がるのを待ちながら、のんびりと休憩することにしました。雲間から日差しが届くと気温とともに気分も上がっていきます。

 岩に分断された複雑で清冽な流れ。高低差が大きい山岳渓流はポイントの宝庫です。反転流はもちろんですが、落ち口の肩にも2匹並んで定位しているイワナがいました。魚たちの少し上流へ、水面を刺激しないようにそっとフライを落としました。魚たち頭上を通り過ぎたフライを、1匹が慌てて振り返ってパクリ! 体長24cmほど、体側に散りばめられた橙点が麗しい、プロポーションの整った黒いイワナでした。

 入れ食いとはいきませんが、飽きない程度に姿を見せてくれるイワナたちに一喜一憂しながら、釣り上がっていきます。

 退渓地点まで残りわずかになってきました。上流の落ち込みから続く2筋の流れ。2度3度とフライを流しながら、少しずつラインを伸ばしていきます。「あと一投だけ」と同行者に断ってロングキャスト。着水を確認すると同時に水面からフライが消えました。力強い引き込みに大物を確信します。強めの4番ロッドが頼もしく思える抵抗をいなしつつ、ラインを手繰りながら手元に寄せてきました。ようやく見えた黒く厳つい魚の顔に胸が躍ります! 掬い損なって落ち込みから下段に落としそうになりつつもどうにかネットの中に収めることができました。

 黒々とした顔は精悍ですが、身体は飴色に艶かしく潤み、そして黒ずんだ尾鰭は大きく発達しています。まるで1990~2000年代に一世を風靡した“ガングロギャル”のようでした。

 生息環境に合わせた色合い。それとも加齢によるものでしょうか。恨めしそうにこちらを睨む眼には、僕は一体どのように映っているのでしょうか。そっと流れに帰しました。振り返ると、釣果を讃えてくれる同行者も恨めしそうな眼でした。

杉村 航(すぎむら わたる)

山岳フォトグラファー。

1974年生まれ。兵庫県育ちの長野県在住。

沢に薮山、山スキー、道なき道をいく山旅が好き。

ライフワークはトラウトフィッシング。美しいヤマメや

イワナを求めて、全国の渓流に足しげく通う日々。

小谷村山案内人組合所属、北アルプス北部遭対協。

全日本釣り団体協議会公認・フィッシングインストラクター